お金のぽけっと#12 ~お笑い以外の観点でM-1グランプリを考察してみた~

2021.12.31

ハラコー

すっかり年末の風物詩となりつつあるのが、お笑いチャンピオンを決める『M-1グランプリ』

12月になると、『今年は何日が決勝なの?』『決勝にはどんなコンビが残ってるの?』なんてことが話題に挙がるようになりました。

そして、2021年の第17回M-1グランプリは”錦鯉”という50歳と43歳のコンビが優勝する結果となり、笑い泣きと感動の涙を誘うドラマチックな結末となりました。

お笑いという観点での考察は有識者にお任せするとして、お金のぽけっとではM-1グランプリをお金やビジネスの観点から考察してみたいと思います。

2001年から始まったこの番組、都市を経るごとに変化(進化)しており、私は漫才の面白さに加えて番組そのものの変遷を眺めることをとても楽しく拝見しています。

TVコマーシャルの変化&強化

テレビ局としてビジネス上最も重要と考えれるのはスポンサーからの広告収入です。

M-1グランプリが盛り上がるほどスポンサー収入が増えるでしょうし、スポンサー企業も(広告費を回収するためだと思いますが)番組に合わせて専用のCMを準備する企業が増えているように感じます。

この源流ですが、当初は優勝したコンビは年間を通じてメインスポンサー(当時はオートバックス)の年間CM出演権が副賞になっていました。
それが変遷していく内、歴代M-1ファイナリスト達が主要スポンサーに番組専用CMに出演するようになっていきました。
今回も、かまいたち、トータルテンボス、南海キャンディーズ(山里さん)、千鳥、ミルクボーイなどが出演していたかと思います。

この演出によって(大変CMが多い番組ながら)チャンネル離れを防止する大きな効果があると予想します。

また、今回”IHI”という会社のCMが4連続で流れる時間帯がありました。
“マジカルバナナ”という往年のゲームを髣髴とされるリズムCM4連発によって脳への残存効果やインパクトは強烈で、同社のHPにアクセスが集中しすぎてサーバーがダウンする事態となっていたようです。

さらに、同社の4つのCMの再生数は200~600万回(2021年12月31日現在)を超え、B2B企業のCMとは思えないほどの広告効果があったのではないかと思われます。

IHI企業CM「恋人」/エネルギー編

メインスポンサーの変化

第17回で大きな変化があったのは、ファミリーマートが主要スポンサーから撤退し、代わって同業他社のセブンイレブンがスポンサーになっていたことだと思います。

実はスポンサーの歴史をふり返ってみると、第1回から10回まではオートバックスが冠スポンサーとなっており、番組名も『オートバックス ~M-1グランプリ~』が番組の正式名称でした。

しかし、番組が第10回を迎えた際に「1つの役割を終えた」ということで(審査委員長の島田紳助さんの引退も関係したと言われていますが)一度は番組に終止符が打たれました。

しかし、その後2015年にM-1グランプリは再開され、この時からファミリーマートは長らく主要スポンサーをつとめることになります。(日清食品やCygamesもこのタイミングでスポンサーに加わっています)

近年のM-1ではクリスマスに向けてファミチキのCM(歴代ファイナリストとのコラボCM)を流すことで宣伝効果はかなり大きかったのではないかと思います。
※2020年のファミリーマートのCMには、かまいたちが出演していました

今回、そのファミリーマートがスポンサーを降板して同業他社のセブンイレブンが主要スポンサーになっていたのには、個人的にはかなりインパクトがありました。

こうしたスポンサー変更の背景まで知り得る術はありませんが、スポンサー費用が高騰しているのか・費用対効果が無いと判断したのか・セブンイレブンがより高い広告費用を提示したのか、そもそも同業だと1社限定(業界エクスクルーシブなスポンサー契約なのか)など、想像するだけで興味深いものがあります。

スポンサー企業同士のコラボ

もう1つスポンサー絡みの話題を入れると、先ほど紹介したセブンイレブンと長年スポンサーをつとめてきた日清食品がコラボレーションしていたことも興味深いことでした。

優勝お祝いセールとして、全国のセブンイレブンでどん兵衛の優勝お祝いセールをするという内容になっています。
また、優勝したコンビへの副賞には、そのキャンペーンの主役権を授与するというものでした。

年末年始にコンビニ需要もカップ麺需要も伸びる事を見込んでのことだと思いますが、こうしたスポンサー企業間のコラボレーションが番組を通じて行われるというのは新たな試みだと思いますし、こうした取組が成功すれば来年以降もM-1グランプリは企業間コラボを促進する舞台としての新たな価値を企業に提供できるようになるかもしれません。(少なくともスポンサーを募集する上での営業力強化にはなると思います)

もしかしたら、こういった企業コラボの話が先にあったから、前述したようなスポンサー変更が行われていたのかもしれません。

どん兵衛公式Twitter

オンラインとの融合

TV局(テレビ朝日)にとってM-1グランプリの20年の歴史は、そのままインターネットとどう関わっていくかという歴史でもあったと思います。

脅威として捉えるのか、敵対として捉えるのか、共存として捉えるのか、模索が続いた20年だったのではないかと思いますが、手探りながらも共存共栄を目指しているように思います。

それが顕著にみられたのは、今回のM-1グランプリではテレビ放映された直後からYouTubeで公式アカウントで公開されたところに見られたと思います。

これまではTV放送された漫才をオンライン配信することはなく、非公式にアップされた動画は(おそらくテレビ局からの削除要請により)すぐに削除されてきました。
今回、公式アカウントで配信されたのは、TV放送された決勝ラウンドだけでなく、敗者復活戦、準々決勝、3回戦など多くのコンテンツに及びます。

この配信コンテンツ量は膨大な配信時間になっていると思いますので、YouTubeを経由した広告収入はかなり得られるのではないでしょうか。

優勝した錦鯉の決勝ネタの動画の再生数は800万回を超えています(2021年12月31日現在)

YouTube 錦鯉【決勝ネタ】1st Round

その他にも、回を重ねるごとに番組とネットとの融合を意識した施策が実施されていますし、スポンサー企業も自社のSNSなどで番組にあわせて情報発信を行っています。

・Twitterトレンドを番組で紹介
M-1に関係するTwitterのつぶやきトレンドを番組内で何度か紹介されています。
これによって、視聴者(ネット民)に少なからず番組に参加している感覚を与えている他、どのようにM-1を楽しんでいるのかを非ネット民にシェアすることで楽しみ方に立体感を与えています。

・優勝予想投票
優勝コンビをネット投票で予想する取組です。
最近は3連単として、1位・2位・3位を予想するようになっています。
これはTwitter同様、番組に参加する手段を視聴者に与えている他、全くお笑い情報を持たない視聴者に対する下馬評(どのコンビが期待されているのか)にもなっています。

・敗者復活投票
毎回番組を盛り上げている敗者復活ですが、視聴者のオンライン投票によって復活するコンビが決定するようになりました。
固定ファンの過多にも影響する気がしますが、前述した施策からもネット活用の方針としては「視聴者参加型」を志向していることがうかがえます。

・大会後にオンライン反省会を開催
オンライン動画サイトGYAO!で、テレビ放送後に出場したコンビとMC(先輩芸人)による大会後の反省会 兼 打ち上げが開催されています。
番組を1人で視聴しているネット民の方にとっては特に嬉しい施策だと思います。
祭りの後の余韻を出場者たちと楽しむことができるのはネットならではだと思います。

上記に加え、前述したYouTube公式チャネルによる動画公開により、一過性のお祭りに終わらせようとせず一連のお祭りを咀嚼することができるように設計されていると感じます。

お笑い+”ドキュメンタリー”

同じく、一過性のお笑いテレビ番組だけで終わらせないという意気込みを感じるのは、出場するお笑いコンビのバックストーリーを伝えるようになったことも番組の進化の1つだと思います。

今回優勝した錦鯉が苦労した人生の果てに遅咲きの花を咲かせたように、コンビ結成15年という出場制限を設けることで「ラストチャンス」を演出したり、前述した「敗者復活」という演出を加えることで、4分間の漫才だけでなくM-1グランプリに向けた各コンビのドラマを演出しているように思います。

1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、敗者復活、ファイナル、最終決戦、と長すぎるほどのプロセスを経ているのも、各漫才コンビのファンがその過程を応援して一体感を演出するファンマーケティングそのものだと思います。

その証左に、テレビでは無名なコンビがファイナルまで残ると、そのコンビのファン・お笑いファンの中には「自分は予選から応援していた。目をつけていた」ということを公言し、薀蓄語りをするファンが出現してます。

漫才の舞台だけでなく、こうしたプロセスを共体験できるのがM-1グランプリ特有の醍醐味の1つになっていますし、エンターテインメントだけでなくドキュメンタリーとして楽しむことができる番組になっているのだと思います。

また、過去大会でファイナルで戦った芸人が審査員を勤めていること(今大会では、サンドウィッチマン、ナイツ、中川家)も、「この大会で活躍したことで、その後の地位を確固たるものにした」というストーリーも自然に感じられるようになっているように感じます。

優勝賞金1,000万円という金額

ここまで書いたようなことを考えていくと、大会当初から設定されている『優勝賞金1,000万円』という金額は、今や安すぎるのではないか、とう気さえしてきます。

恐らくスポンサー収入、興行収入、ネット配信による収入など直接的な利益だけでも賞金の金額をはるかに上回る経済効果のある大会になっていると予想します。

この大会で活躍した芸人たちのその後の活躍ぶりなど副次的な効果を含めると、賞金は桁が1つ増えても(1億円になっても)おかしくないと感じます。

むしろ賞金以上に芸人としてのステータスの向上や、芸人という職業そのものの格を挙げようとしていることがうかがえます。(近年、世界を舞台に活躍したアスリートが順番を決めるくじを引いているのも、芸人をアスリートやアーティストと同列にまで格をあげようとしていることがうかがえます)

まとめ

他にも、テレビ朝日という企業だから、ここまで番組の作り込みができるのではないかということも考えたりするのですが(他局は不動産や有価証券による収入が大きいが、テレビ朝日はテレビ配信事業の比率が高い)マニアックすぎるのでその辺は割愛するのですが、お金のぽけっと的には M-1グランプリという番組を毎年視聴しながら、そんなことを感じていたので、今回の大会を機に一度文章にしてまとめてみた次第です。

雑にまとめると、M-1グランプリは

・スポンサーの広告価値を高め

・オンライン活用により視聴者に多角的な楽しみを提供し

・番組前後にもマネタイズポイントを増やし

・ドキュメンタリーとしての楽しみ方を提供し

・お笑い、芸人という職業の社会的地位を高めている

・優勝賞金1000万円という金額がかすむほどのバリューを生んでいる

モンスター番組なんだと思います。

M-1グランプリ公式サイト:https://www.m-1gp.com/

年内に書きあげたいと思って執筆しましたが、なんとか間に合って入稿できました。

皆さん、ステキな新年をお迎えください✋

Happy New Year!!!!

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