英語の教員から日本酒づくりの世界へ 木下酒造フィリップ・ハーパー杜氏【前編】

2023.12.21

けんご

 気温もグッと下がり始めて、いよいよ冬が本格化してきましたね。冬の丹後といえば、美味しいお魚や蟹、そして日本酒です。今回は「玉川」ブランドで日本酒を造られている木下酒造さんのハーパー杜氏にお話を伺ってきました!日本酒業界では著名な方ですが、そのルーツや今の日本酒業界に対する思いなどをお話いただいておりますので、是非最後までお楽しみくださいね。

ハーパー杜氏の生い立ち

けんご:今日はよろしくお願いします!個人的には大学時代から親しんで飲ませてもらっていた玉川の杜氏さんにインタビューできるということで、感慨深いです。まずはハーパーさんのパーソナリティを伺いたいと思っていまして、そもそもイギリス生まれのハーパーさんが日本に興味を持たれた最初のきっかけは何かあったのでしょうか?

ハーパーさん:実は日本に興味があったから来たというより、国外で働きたいという思いが先にありました。英語を教える仕事を探していたのですが、日本での受け入れが最初に決まって、日本にやってきました。

けんご:そうなんですね!それまで、日本の文化などに触れる機会はあったのですか?

ハーパーさん:ほぼ無かったです、今でこそインターネットがあって、日本のアニメや漫画に触れることができますが、当時はそんなこともありませんでしたから。和食も今ほど世界でブームになっている時期ではなかったので、日本のことは本当に知らなかったです。ここ30年ほどでかなり変化があったとは思いますね。

けんご:確かに当時のことを想像すると日本の事を知る機会はなかなか無さそうですね。国外への興味は何かきっかけがあったのですか?

ハーパーさん:大学では英独文学を学んでいて、2~3回ほど国外を訪問したり、ホームステイで滞在した経験がありました。大学3年生のときは1年間ドイツの高校で英語を教えながら暮らしたのですが、その時の経験が大きかったですね。実際に暮らしてみると文化の違いなどの衝撃がすごかった。当時は東西ドイツに分かれていたので、色々な世界をみることができたと思います。恐ろしい経験もしましたね。笑

けんご:そ、そうなんですね。。

ハーパーさん:国境沿いに行くと、有刺鉄線が張ってあったり、突然町が無くなって更地になっていたり、今では考えられないようなことが実際に起っていましたね。

けんご:政治が混沌としていた時代ですよね。

ハーパーさん:イギリスでは経験できないことをたくさん経験できたのもあって、国外への興味というのが生まれていったのだと思います。文学を専攻していたので言葉にも興味があって、英語以外の言語を学んで生活するのも楽しかったですね。

けんご:そうなんですね、言葉が好きだったということは文学少年だったのですか?

ハーパーさん:そうですね、小さい頃から本はよく読んでいました。両親がよく読書をする人だったので、自分としては本を読むことは息を吸うのと同じくらい当たり前のことでした。趣味とかそういうレベルじゃない感じです。

けんご:それはすごい、僕は本を読みだしたのは大人になってからなので。笑 では、大学に入って、さらに文学にハマっていったのですか?

ハーパーさん:いや、大学時代は遊ぶことが中心でした。勉強は単位を落とさない程度にやって、遊ぶのが忙しかったです。笑 僕が卒業したオックスフォード大学(ユニバーシティ)は、40校くらいの“カレッジ”というコミュニティのようなもので構成されている組織の総称なんですね。

けんご:え、そうなんですか。

ハーパーさん:はい、それぞれのカレッジが村のようなもので、サッカーチームを持っていたり、食堂や図書館もあったりします。僕のいたカレッジには400名ほどの大学生が居たと思いますが、その中で十分生活ができる環境だったので、スポーツをしたり飲んだり、色んな遊びをしていました。

けんご:他のカレッジの人たちとの交流などはあったんですか?

ハーパーさん:他のカレッジと交流している人も居たけど、僕はカレッジ内で楽しんでいましたね。なので、同期とも仲が深くなって、卒業時に日本へ行くときは3人の同期と飛行機が一緒でしたよ。僕のように今でも日本で仕事をしている友人も居ます。

教員から日本酒の世界へ

けんご:初めて日本に来られた時の印象はどうでしたか?

ハーパーさん:もう衝撃の連続だったのは覚えています。8月に来たので飛行機から下りた瞬間の蒸し暑さには驚きました。とにかく暑い。

けんご:確かに今も暑いですが、当時もイギリスに比べたら暑いですよね。最初の就職先はどんなところだったのですか?

ハーパーさん:最初は大阪市の教育委員会に勤めていたので公務員という扱いでしたね。市内の高校を中心に英語の教員として働いていました。

けんご:大阪市内だったんですね、生活してみてどうでしたか?

ハーパーさん:イギリスの田舎出身だったので大阪のような都会で生活するのが楽しかったです。下町っぽい雰囲気も好きでしたし、飲みに行くのが好きだったので、仕事が終わってからよく友人と飲み歩いてました。

けんご:僕も大阪に住んでいた頃はよく行きました。笑

ハーパーさん:ずっと教員をやるつもりは無かったのですが、日本での生活が楽しかったので何か面白いことできたら良いなとは思っていました。そうした中で、学校の事務をしていた同僚と仲良くなって、その同僚の同級生も加わって3人で飲みに行ったり、コンサートにいったりよく遊ぶようになって、日本酒もよく飲むような仲になっていました。

けんご:なるほど、日本酒を初めて飲んだ時の衝撃などはあったのですか?

ハーパーさん:そうですね、衝撃というより、基本的に酒飲むのが好きなので美味しく楽しく飲んでいたと思います。仲良くしていた友人達との出会いが本当に大きくて、色々な日本酒を飲み歩いたり、実際に蔵見学に行ったり3人で色々経験したことが大きかったです。

けんご:なるほど。そういった経験をしながら日本酒にどんどんハマっていったのですか?

ハーパーさん:そうですね、日中は学校で英語を教えて、夜は地酒バーで働いた時期もありました。そうこうしているうちに、仲間の一人が仕事を辞めて奈良の蔵で働き始め、僕もその蔵に遊びに行っているうちに、その翌年には仕事を辞めて同じ酒蔵で働きはじめていました。笑

けんご:本当にその人たちとの出会いが大きかったんですね。

ハーパーさん:そうですね、明日もそのうちの一人と飲みますし。笑 うちの妻の言葉を借りれば「あいつらが悪い!」の一言に尽きるくらい、彼らとの出会いが無ければ日本酒業界には入っていないですね。笑

けんご:なるほど。笑 

ハーパーさん:最初は友人の蔵へ遊びに行っていたのが、「手伝え!」と言われて手伝ってみたら面白くして。お酒づくりはもちろんですが、酒蔵の和風建築物だったり、昔から使われている道具だったり、杜氏という制度であったり、日本酒づくりをする環境自体がとても楽しかった。めっちゃしんどい仕事ではあったけど。笑

けんご:分かります、日本酒蔵の独特の雰囲気や、香りは僕も好きです。蔵で働きだしてから、特に冬場の繁忙期は蔵人たちと寝食をともにするような生活をされていたのですか?

ハーパーさん:僕は新婚だったので、蔵の近くに部屋を借りていて、仕事が終わったら帰っていたんですが、ご飯は蔵のメンバーと食べていました。ご飯の後、一旦家にシャワーを浴びに帰って、またすぐに蔵に戻って夜遅くまで働いて、帰ったら寝るだけのような生活でしたね。

けんご:かなりハードな生活ですね。

ハーパーさん:そうですね。でも家に少しでも帰って一呼吸入れるだけで違いました。ハードでしたけど、それと同じくらい面白い仕事だったし、杜氏さんもめっちゃカッコいいし、刺激的でしたね。

けんご:なるほど、働く中で自分も杜氏になりたいと思う瞬間もあったんですか?

ハーパーさん:いやいや、杜氏は僕らからしたら雲の上の存在だったし、そもそも日本酒蔵は何千もあり、各蔵に杜氏はたった一人。自分がなりたいと思ってなれる存在でもなかったから、考えてもいなかった。

けんご:確かに、技術や知識だけじゃなくて、縁やタイミングもないとなれないポジションですよね。新婚の中でも忙しく働いてたハーパーさんの仕事を奥様は理解されていたんですね。

ハーパーさん:理解というか、結婚する前に蔵人になることは決まっていたので、分かった上での新婚生活でしたね。それでも、働くことになった奈良の田舎町についてきてくれて、辛い思いもたくさんあったと思いますし、申し訳ない気持ちはありました。

けんご:なるほど、その分、造りが終わったら家族との時間ですね。

ハーパーさん:そうですね、できる限りそういった時間を作ってきたつもりですが、それは妻が判断することですね。笑

▼玉川 – 木下酒造有限会社
〒629-3442 京都府京丹後市久美浜町甲山1512
店舗営業時間:9:00~17:00
定休日:なし(1月1日を除く)
TEL:0772-82-0071
HP:https://www.sake-tamagawa.com/
Instagram:https://www.instagram.com/tamagawa_official/


たんぽけは今年度、「京丹後ふるさとネットワーク」とともに情報発信を行っています。
京丹後市に興味や愛着を持ってくださる方や京丹後市出身者とのネットワークとして開設された「京丹後ふるさとネットワーク」を、ぜひご活用ください。

▼「京丹後ふるさとネットワーク」(京丹後市サイト)
https://www.city.kyotango.lg.jp/top/soshiki/mayoroffice/hurusatoouen/2ru310network/18684.html

▼「京丹後ふるさとネットワーク」登録方法のご参考にどうぞ
https://tanpoke.com/20795/