冬といえばカニ!競りから店頭に並ぶまで、橘商店の吉岡さんに色々聞いてみた~後編~

2022.11.10

けんご

 丹後の冬といえば蟹!ということで、前回から引き続き橘商店の吉岡さんから蟹についてのお話を聞いていきます。前編では蟹の基本的な情報や、種類、美味しく食べ方について聞いてますので、まだ読んでない方は前編からどうぞ!

 後編の今回は、橘商店さんにフォーカスをしてお話を伺ってみました。橘商店さんや吉岡さんのバックグラウンドから、蟹シーズンが始まるとどう忙しくなるのかなど、個人的に気になっていた事を書いています!ではでは、後編スタートです~。

蟹をはじめたきっかけ

井上:そもそもなんすけど、吉岡さんは昔から蟹は食べていたんですか?

吉岡:いや、全然食べてないっすよ、子供の頃に蟹食べてた記憶ないですよね。

井上:え、そうなんですか!魚屋さんなので食べてるかと。。

吉岡:自分が小学校4年生ぐらいから親が魚屋を始めたんですよね。最初はもうずっと魚ばっかりやっていて、当時は蟹をやっていませんでした。今よりも人数も少なかったので、旅館さんへ舟盛りをつくったりするのに忙しくて。

井上:(当時はそういう状況だったんだぁ)

吉岡:僕が高校卒業して料理専門学校行って、3年ぐらいはホテルで働いて、1年半ぐらい海外を周るクルーズ船に乗って料理してました。それから丹後に帰ってきて、実家の魚屋で働きはじめたのですが、そのタイミングで自分が競りにも行きだして蟹を本格的に始める事になったんだと思います。

井上:なるほど、吉岡さんが戻ってこられて本格化したんですね。

吉岡:そうそう、今でこそ人はいるけど、当時は少ない人数で今より何倍も多い数の舟盛りを旅館や民宿に配達とかしてたので。笑

井上:それは蟹をやる余裕なさそうですね。。

吉岡:あの頃はハイエースに舟盛りをパンパンに詰めて1日何回も往復するみたいな、カオスな状況だったと思います。旅館や民宿もみんな元気だったし。なので蟹やってる暇もなく、仕入れついでに蟹も買って売るくらいでしたね。自分が帰ってきて競りに行けるようになって、まずはセコガニから力を入れ始めたって感じです。

蟹の漁獲量と競りについて

井上:昔はコッペを3時のおやつに食べていたくらい蟹がたくさん獲れていたと聞いたことあって、今はそんな事がないじゃないですか。獲れる量が減ってきてるんですか?

吉岡:蟹の個体数が減っているのもあるかもしれないですけど、漁獲制限をちゃんとしてるから、昔ほどの流通量がないってことなんじゃないかな?今は1日で競りに出せる量が決まってるんですよ。漁船のサイズや蟹の種類にもよりますけど、例えば1隻で1日3000杯と決まっていたら、5000杯取っても3000杯しか競りに出せないんす。

井上:へー、そういう決まりがあるんですね!

吉岡:じゃあ余った蟹はどうするかというと、水槽で活かしておいて翌日の競りに出すといった感じです。

井上:なるほど、獲れた分はもったいないですもんね。

吉岡:ちなみに水槽に活かしておくと、擦れたりして、鮮度がちょっとずつ落ちてきます。見た目も少しずつ変わってくるから、その辺の変化は僕らも見逃さずに目利きするので、必然的に値段も下がってきます。

井上:当たり前ですけど、見た目である程度判断できるんですね。

吉岡:そうっすね、脱皮してから時間が経った蟹とかも見た目で分かるし、そういう蟹は身があまり詰まって無かったり、パサパサで美味しくなかったりするから、その辺りは目利きしながら美味しい蟹を選んでますね。

井上 :すごいなー。解禁してからの日々競りに行くと思いますが、金額変動ってどんな感じなんですか?

吉岡:今年は日曜日が解禁なんで上がりそうですね、週末にかけて値段は上がっていくんですよ。飲食店や旅館で蟹の需要が高まるので、週中くらいは下がるんですけど週末にかけて上がっていくみたいな。

井上:需要にリンクしているんですね!

吉岡:需要と供給によって変わる、ホント駆け引きの世界ですね。時期によってはたくさん買っておきたいけど同じようなこと考えている人がいたら、おのずと需要が高まって金額も上がっていくし。うちは水槽があるんで、ある程度買って余っても活かせられるんですけど、水槽ない人は売りきらないとアカンので、駆け引きですよね。冷蔵庫があっても、鮮度は2,3日しか持たないので。

井上:自分たちの設備状況考えながらということですねー、面白いなぁ。

吉岡:そうっすね。週末にかけてたくさん注文が入っていたら、週の最初の頃から安くたくさん仕入れ始めるんすけど、それが続いてラッキーな時もあれば、だんだんと値段が上たってきて気づいたら週初めの倍くらいになっていることもありますし!

井上:本当に駆け引きですね。。吉岡さんが実際に競りをするんですか?

吉岡:いや、自分はできないので仲買人さんに依頼してる。その人に目利きした蟹と予算を伝えて競りしてもらう感じ。

井上:なるほどー、天候とかも考えながら競る内容考えているんですか?

吉岡:そうっすね、天候によって値段変動はよくあるので考えます。天候によっては一週間漁に出れないパターンもあるので、天気予報みながら漁の予定を予測して買う感じです。なんであの人あんなに買ってるんやろー?って思ったら急に荒天して漁に出れなくなるの読んでた!とかありますからね。笑

井上:(経験がモノを言う面白い世界やな。。)

吉岡:でも冬の日本海って荒れる前提なので、常に先読みしながら買ってますね、小型漁船中心の漁港で競る時とかだと、週に1回しか出れない時もありますからね。

井上:そんな事もあるんですか!?

吉岡:なので兵庫の漁港だと多少荒れてても大型漁船が漁に出れるので、そこの情報見て買付の予定組んでます。柴山とか浜坂とかの大型船だと、1週間漁に出て1回ぐらいのペースで帰ってくるので予定が立てやすいですよね。

井上:じゃあ毎回行く漁港も違うんですか?

吉岡:そうですね、各漁港に知り合いの仲買人さんがいるので、状況に応じて変えてます。都道府県ごとの漁港情報がのってるHPがあるんですけど、翌日の水揚げ量を予測できる情報が前日にアップされるので、だいたい分かるんですよね。

井上:そ、そんなページがあるんですね。。知らなかった。。

吉岡:なのでこの情報みて、買付したい量を考えながら翌朝どの漁港に行くかを考えてます。

井上:(めちゃ戦略的で面白い。。)

吉岡:漁港によっても競りのやり方がちょっと違うんですよね。5杯ずつ競るところもあれば、10杯~20杯のセットを1杯あたりの金額を提示して競るところもあったり。他にも1回だけ金額提示して競って終わる漁港もあれば、何度も提示しながら値段がだんだん上がっていく競り方をする漁港もあったり色々ですね。水揚げ量を確認しつつ、自分が確保したい量をベースに、品質と価格のバランスを考えながら、どこの漁港に行くかを考えるみたいな。

井上:常に頭をフル回転ですね!競って買い取れた蟹はご自身で持って帰ってくるんですか?

吉岡:持って帰ってくる漁港もあれば、届けてくれる漁港もあります。仲買人さんによるかな。だから7時15分から競ったとしたら、終わるのが9時半とかで。そこから帰ってなのでその日の朝に仕入れた蟹は翌日出すみたいな。早く帰れた日はすぐに出すこともありますね。

井上:なるほど。

吉岡:でも、たまに競りが長引いて、帰るのがお昼前後になっちゃうと、気温が上がって蟹が死んでしまう事も普通にあったりします。だから鮮度との戦いでもある。あとは、漁港によってサイズの揃った蟹が買いやすい漁港や大きい蟹が買いやすい漁港など、特色があるのでそれもまた考慮してますね。

井上:蟹がはじまると、本当に考えっぱなしですね。

吉岡:そうそう。だから週末に形揃ったのがたくさん欲しいって言われたらこの漁港、たくさん安くだったらこの漁港、みたいな判断を常にしながら、1週間競りに行き続けて、あっという間に終わります。笑

井上:そ、壮絶っすね。。

吉岡:マジで壮絶っよね、お店も休みなしでフル稼働してる時期ですし。

井上:(ひえー、頭が下がります!)

蟹が店頭に届いてから

井上:蟹シーズンが始まると、色んな店先で蟹を茹でているイメージが強いですが、茹で方にこだわりとかもあるんですか?

吉岡:そうですね、茹で汁も塩分濃度を調整したりしてこだわってはいます。あとは茹で汁も毎回全部変えるのではなく、一部は前に茹でた汁を残していて、これは蟹から旨味出汁が出てるからその中で茹でると美味しくなるんだよね。だから前日の茹で汁をわざわざ置いといて、翌日使ったりする手間もかけてる。

井上:やはり、手間かけてるんですね。

吉岡:手間かけてるお店はどこもやってるんじゃないかな?お店によっては松葉蟹を茹でる前にセコガニを茹でるってこだわりも聞いたことあるし。

井上:どれくらいの時間かけて茹でているんですか?

吉岡:沸騰したところに放り込んで再沸騰してから15分間。ホントは13分くらいがよしとされているけど、茹でムラがあるとアクが出たりして美味しくなくなるのでうちは15分茹でてる。

井上:なるほど、家で茹でるとなると大変ですもんね。

吉岡:家に寸胴あれば、できなくはないけど、蟹一匹買ってきて、足折ったりしながら頑張って茹でるの大変でしょうね。

井上:そう考えるとお店で茹でてくれるのはありがたいですね。蟹が始まるとお店は朝から忙しいんですか?

吉岡:混みだすのはやっぱり10時くらい。旅館チェックアウトして向かってくるお客さんが多いので、その前は少し落ち着いてるかな。もし午前中でたくさん売れてしまったら、翌日分を出さざるを得なくて、競りで前倒しして仕入れなきゃいけなくなったりもします。

井上:(おおお。。)

吉岡:それでも間に合わない時はその日の午前中に出すのを競りで落としてすぐ持っていくとか、ホントに蟹が始まると目まぐるしいですね。もうヘトヘトになって1週間過ごすのですが、蟹シーズン序盤だとまだ1週間しか経ってないのか!と思いながらひた走っています。笑

井上:(そ、そんな怒涛の蟹シーズンが到来する、、!)

丹後で一番愛される魚屋を目指して

井上:最後に、橘商店さんのこだわりだったりお店としての特徴教えてください!

吉岡:やっぱり他のお店より値段は安く提供してると思います。蟹でも1回うちで見てから、よそ見てきますって言ったお客さんは大体帰ってきます。笑 もっと安くしてや~と言われる事もありますが、「いや、ウチはそもそも安いですよ!」って言うてますね。

井上:なるほど!それはやっぱり企業努力で安くされているのですか?

吉岡:それもありますが、その場だけで利益出そうと思っていなくて。どうしても価格って変動するので、平均でみた時にちゃんと利益が出せていればうちはOKと考えているので、その分周りが高値な時もさほど上げ過ぎずに出していることはありますね。1匹1匹で利益追求じゃなくて、10匹で考えた時に利益出す、みたいな。

井上:それはありがたいですね、利益出すためにコスト圧縮したりとかもしてるんですか?

吉岡:それともさっき言ってたように10匹で元が取れればOK。安く仕入れられたから利幅が広がるのではなく、その分安くたくさん提供していっぱいの人に食べてもらいたいと考えています。ある意味、蟹をきっかけに来てもらった人が、他の魚や海産物を買いに来てくれたり、リピートしてくれた方が嬉しいじゃないですか。

井上:その気持ちはとても分かります。

吉岡:もちろん、もっと稼げるようにと考えることもありますが、長い目で見てお客さんに愛されるにはどうしたらいいのか、っていうことを考えてます。蟹だけで見れば1万円損してるかもしれないけど、1年単位で見たらそれ以上の利益を出せているとか。

井上:「丹後で愛される魚屋さん」を目指されているという事ですね。

吉岡:そういうことですね。やっぱり美味しいもんはやっぱ美味しく食べてもらいたいです!どんな注文にも対応できるように日々頑張ってます。安く美味しい魚とか、高くて質のいい蟹など、いろんな要望に応えていきながら愛される魚屋さんを目指しているので、これからもどうぞよろしくお願いします!!

井上:これからも美味しい魚や今シーズンの蟹も楽しみにしています!今日はありがとうございました!!!

●店舗情報

京丹後一愛される魚屋 橘商店
住所:〒629-3241 京都府京丹後市網野町木津16
TEL:0772-74-1155
営業時間:9:00~19:00(水曜定休、蟹シーズン中は無休)

▼Webサイト
https://tachibana-shouten.com/

▼オンラインショップ
https://tachibana.raku-uru.jp/

▼公式LINE
https://lin.ee/cM60qVw