染職人、小林知久佐。モノづくりへの愛情と着物のみらい

2022.2.10

けんご

これは、「丹後の織物の未来」をテーマに、たんぽけメンバーが「知りたい!興味がある!」と感じたことを独自に取材し執筆する、シリーズ記事です。


「僕の染色技術を世間が必要としているのか、証明したかった」

 新卒で就職した染色会社の拠点立ち上げを目的に丹後へ移り住んだ、小林染工房の小林知久佐(こばやしともひさ)さん。拠点の撤退や独立後の資金難など数々の紆余曲折があった中、それでも染色を辞めなかった理由は、「世間が自分を必要としているかどうか。」

 美しいぼかし染めの技術や日に焼けにくい染料へのこだわりなど、染色職人としてのものづくりはもちろん、FacebookやYouTubeを使いこなして情報発信まで積極的に行っている。「いくら技術があっても、知られていなければ世間に無いのと同じ。だから知ってもらう努力をしないといけない。」

 ものづくりだけでなく、マーケット感覚も持ち合わせた染色職人小林知久佐さんに、若かりし頃から現在にいたるまでのお話をうかがってきました。

出身~引き染めにいたるまで

 愛媛県今治市出身の小林さん、父親の仕事で転勤が多く静岡など全国を点々としながら、和歌山に移り住む。転校した直後はクラスメイトから標準語をバカにされることもあったが、そんな経験が逆境に立ち向かう小林さんの強さをつくったという。

 和歌山の工業高校へ進学し、インテリアやデザインを勉強。ものづくりやデザインすることが好きになり、卒業後は大阪芸術大学への進学を目指すことになります。苦手な勉強にも向き合い成績も上がっていくも、家庭の事情で断念せざるをえない状況に。それでも進学して作品づくりに忙しそうな友人をみて「いかなくてよかった」と感じたそうです。

 高校卒業後は、京都の町が好きだった事、「5年で独立!」という言葉に胸が踊った事が決め手となり、京都の友禅染め会社に就職。友禅染めを学ぶ中、3年目から「男だから」という理由で引き染めを学ぶことになり、その技術は現在まで続くことに。

拠点立ち上げの責任者として丹後へ

けんご:就職して染めのお仕事をされていた中、丹後に来るきっかけは何だったのですか?

小林:会社が丹後ちりめんの生産地である丹後で拠点を立ち上げることになり、その主任をやってくれと言われたのがきっかけ。給料もプラスでもらえたし、釣りが好きだったので引き受けたが、周りからは「左遷された!」なんて事も言われたよね。笑

けんご:なるほど、会社がきっかけだったのですね。実際に移住してからはどうでしたか?

小林:釣りどころじゃないくらい忙しかったなぁ。技術も経験もまだ十分ではない中で部下10名くらいを束ねていたし、わざわざ丹後に仕事を依頼するお客さんもいなかったので、ひたすら営業に回る日々を過ごしてたね。流通も発達していなかった時代なので、営業先によっては心ない言葉をかけられることもあった。

けんご:やっぱり拠点立ち上げって大変ですよね。。

小林:それでも自分の作品を評価してくれたところは仕事をくれて何とか回していたけど、不景気もあって人材不足になり、拠点を撤退することになった。本社に戻してくれと言ったら「戻っても自分の居場所ないで」と言われて独立を決意したんだよね。

けんご:(ま、まじか。すげー時代だな。。)

小林:独立する時は、撤退する拠点の道具や染料などを安く買い取らせてもらい、工房もそのままに家賃を払いながら仕事をさせてもらえた。撤退前から受けていた仕事を引き継いで仕事をしていたけど、工房を所有していた前の会社が経営悪化して工房が売られることになり、「小林さん、半年後には出て行ってくれ」と言われて…

けんご:(や、やばい、これぞハードモード。)

小林:その当時は大学生の子供たち二人に学費や仕送りをしていて、新しく工房を買うような資金はなくてな。とはいえ工房の候補地となるような場所を紹介してもらったが、広すぎたり、逆に小さすぎたりと良い物件はなかなか見つからなかった。辞める事も考えたが、周囲の人に相談し続けていたところで現在の工房を紹介してもらってね。

けんご:そういった経緯があって今の工房があるんですね。

小林:そうそう、それでも当時は貯金10万しかなかったからね。最初に提示された金額では到底購入は不可能だったけど、友人が値下げ交渉をしてくれてなんとか現実的な金額になったんだ。銀行にも頭を下げて何とか融資してもらえるようになり、物件を購入。でもお金がとにかく無かったから、工房の設計は自分でやって、工事を工務店に依頼して出来上がったのがこの工房。

けんご:工房ができてからの仕事は順調でしたか?

小林:いや、そうでもなくて。基本的には下請けでずっと仕事をしていて、安い加工賃で量をつくらないといけなかったのがしんどかったなぁ。注文の量も減ってきていたので、なんとかならんかなと思っていて、のれんやアクセサリー、スカーフも作ってみたが鳴かず飛ばずだった。芸大生にデザインしてもらった商品なんかも開発したが、大した利益にもならず、色々手を出すのは止めようと決めて和装を中心に考え始めた時期でもあったかな。

けんご:(商品を絞るのって大事だよね・・・)

知られていないのは世の中にないのと一緒

小林:ある時に丹後の織物グループでイベント出店する話をもらい、出店についていくことになったんだ。町屋で着物を売ったり東京へ行ったりして、イベント自体はセンスが良かったから行ってみれば売れるかなと思ったけど、そう甘くはなくて。

けんご:(イベントで成果につなげるのって、どこの業界でも難しいんだ・・・)

小林:そんな中、着物カーニバルというイベントに出たんだ。そのイベントでは本当に着物が欲しい人と繋がれる場になっていて、衝撃を受けて最低3年は出続けようと決めたよね。着物サローネというイベントも着物好きが集まっていたし、出るべきイベントだなと。

けんご:イベントに出始めて、なにか変化はあったんですか?

小林:それくらいからSNSも始めていたのもあって、知名度がとにかく足りないのを痛感したよね。「知られてないのは、世の中に存在しないのと一緒」とアドバイスをもらったこともあって、今でもそう思ってる。今の時代スマホで何でも調べる時代だから、そこに出てこないとだめでしょ?情報発信の努力をしていかないとと気付かされたなぁ。

けんご:具体的にどう努力していったのですか?

小林:詳しい友人に教えてもらって、僕の投稿にいいねした人をフォローして、フォロー返してもらったり、Facebookやインスタなど並行しながら使ってそれなりにフォロワー増やしたよ。(2022年1月時点でインスタフォロワー1,195件)今もフォロー返しはするけど、自分からフォローしまくってフォロワー増やすことはしてなくて。数じゃなくて、その人が本当に僕の着物に興味ある人なのかが大切なわけでしょ?着物に興味ない人に発信しても意味ないからね。

けんご:(Webコンサルの至極まっとうな意見聞いてるみたいだな。。)

発信を増やしていって、反応やお客さんに変化はどうでしたか?

小林:発信は作業をちらっと見せるくらいしかやらなかったけど、イベントで「見に来ました」「SNSで見てます」、という人が増えてきて着物が売れていったなぁ。それで売上も伸びていってね。やっと順調になってきたなーと感じていたところでコロナになって、打撃を受けたという感じ。笑 でもそれでいいバランスになったよ、働きすぎはダメだね。自分の限界を知っておくのは大事だけど。

けんご:それ、めっちゃ分かります。僕も病んだ時期あったので。笑

小林:情報発信はやっぱり大事だよね。丹後の中でおさまっているのではなく、大阪や東京に小林のファンをつくらないとアカンと思って。とにかく見てもらう努力をしないといけないと常に思うようにしている。

まわりの真似は面白くない

けんご:染めの職人さんでyoutubeやっている方はなかなかいないと思うのですが、始めたきっかけは何かあったのですか?

小林:情報発信に力を入れていく中で「動画くらいはしないと」という考えが頭の片隅にはあったんだよね。カメラが好きだったから、機材の情報なんかを集めたり人に聞いたりして、やったらできると思ってて。

けんご:かなりこだわった設備が揃っているようなのですが、これらは購入されたのですか?

小林:コロナの助成金を使ってパソコンや動画編集の設備を揃えることができたんだ。情報発信もあるけど、僕は後継者を残せなかったので、自分の技術を動画で残して、動画カタログみたいなものを作りたくて。

けんご:なるほどー。動画編集のスキルはどうやって身につけたのですか?

小林:とにかくyoutube先生。無料だし使わない手はないよね。何十回も使い方の動画みてて、妻から「いつまで同じ動画みてるの…?」と言われることもあったよ。笑

けんご:ええー、一から学ぶには大変だと思うのですが、、やはり興味があったからですか?

小林:興味というか僕は本を読んで勉強するのは苦手なタイプで、人が喋ったり、動いてる姿から学ぶタイプなんだよね。だからモノづくりも見て覚えてきたタイプ。youtubeも習いたい事を発信しているyoutuberを3人位みて、合う人を探して勉強する。分からないことはとりあえず、youtube。

けんご:わ、若いですね。笑 youtubeはじめられてから変化や反響はありましたか?

小林:学生から反響があったり、染物の国際フォーラムでも同業者から「見てますよ!」と声かけてもらう機会が増えたかな。今の学生や若い人は恵まれているよね。ツールや情報が溢れていて、それらの情報の拾い方次第で自分のやりたいことができるし。その人の経験がベースになって、その人にしかできないことができるよね。

けんご:たしかに、僕ら世代は特にやりたいことを全うしている人とそうでない人では、人生の楽しみ方が全く違う感覚がありますね。

小林:だから差がつくよね、情報を拾う人とそうでない人とでさ。例えば動画編集ソフトもこう使わないといけない、というものはないと思ってて、自分の表現したいものを表現できれば、使い方は自由だよね。自ら手に入れたいものがあったら、自分なりのやり方をやってみろと。

けんご:(実際に小林さんがそうやってるから説得力あるなぁ)

小林:まわりのまねをしてても面白くない。染物のyoutubeをやっている人いないからやってみたし「小林さんの動画は○○に似てる」と言われたら興醒めする。笑 自分のやりたいことを実現するためにツールはあって、ツールを使うことが目的になっていたらアカンよ。業界に対しても、そのまま身を置くのではなくモノづくりを楽しんでいる小林でいたいから、情報発信も動画もやってる。

けんご:本当にそうで、引き染めに限らず動画もモノづくりを楽しんでいる小林さんですもんね。

小林:そうそう。作る売るだけじゃなくて楽しむ小林を出す為に、梅田くん(ローカルフラッグ所属)と一緒に自分が着る着物を染める体験もやったしね。もちろん、本人が引き染めをしたいと言ってくれたからだけど、僕もyoutubeの企画としてやりたかったから工房通ってもらう企画にしてさ。一緒に着物を染める過程を動画にして、最後はその着物を着て彼が販売しているビールを飲みに行こうって。お互いwin-winだしいいよね、結果的にやってよかった。

けんご:動画みましたが、めっちゃ良かったです。若い子でも引き染めができるんだというのが伝わってきました。

小林:そうそう、それで梅田くんが着物着てくれることで、若い子の間で広まるからね。「この着物、俺が染めたんだよ」と言ってもらえたら話題にもなるし。僕は僕で、東京のイベントへ行った時にクラフトビールを紹介したら、つながっていくし、ストーリーになっていくよね。

愛情をもってつくる

小林:情報発信に力を入れたこともあって小売屋さんからも問い合わせもあったりしてさ。取引をした時に、消費者に届くまでの間に、かなり抜かれていることに気づいたんだよね。僕の弱点は業界全体を知らないことだと感じて、考えるようになった。

けんご:ほうほう

小林:材料や染料にこだわって、デザイン料などを考えても、直接買いたいお客さんに売ることができたら利益を確保できるなと。そしたら月に何十反も染めて大変な思いをする必要もなくなるし。本当に自分がやりたい染めの仕事や、作りたいものに集中できたら毎日が充実しそうだと考えてさ。

けんご:なるほど、であればオンラインショップは考えなかったのですか?

小林:コロナになってから考えたけど、オンラインショップをやると管理する人が必要になるじゃない?別で誰かがやってくれるならいいけど、自分は作る方に集中したいから、手を出してないね。

けんご:(やっぱりモノづくりの小林さんだもんなぁ) 今は染める数も絞って充実した生活ができているんですか?

小林:一歩手前まできている。笑 売上に応じて働き方を調整しつつ、納期はもちろん守るけど、自分のタイミングで休みをとれるし、友人と一緒に釣りもいったりしてるよ。遊漁船の手伝いなんかもやってさ。自分も釣り好きだから遊漁船に乗らせてもらうのは嬉しいし、一緒にシーズンの釣り方を開発したりも楽しみながらやってる。そしたらその遊漁船の船長から動画作ってくれと言われて、いいよって。人の為にやってきたことって、つながっていくよね。

けんご:当たり前ですが、なかなかできることをじゃないですよね。

小林:やっぱり、何事も愛がないと駄目だと思う。染めるのはもちろん、動画とるならもその人の為に、どの角度がよいのか、どんな動画を作れば喜んでもらえるかを考えないと。そこまで技術はないけど、愛はあるから何とかなる。

けんご:わかります、愛情があれば何だってできちゃう感覚。

小林:ただ、愛せない人もいるから、そこが難しいよね。笑

けんご:確かに。笑 好きでやっている事が繋がっていった先は何か考えてたりしますか?

小林:今、僕の染めた生地や反物を使いたいというデザイナーさんが増えていて、ミラノのサローネだったり、モザンビークのファッションショーに出る作品に僕の生地が使われているんだ。ファッションショーの同行でニューヨークへ行ったりもしてさ。そこで動画が役立つとは思っている、動画なら言語関係ないからね。

けんご:丹後から世界に繋がってるとか、かっこよすぎる。。

小林:自分が楽しんでいたモノづくりが、繋がる瞬間があるよね。海外のファッションショーにも、コロナが落ち着いたらついて行って、そこで動画を見せれたらいいなーと。だから今は英語勉強してテロップ入れられたらなとか考えてる、まぁ無理そうだけど。笑

けんご:えー、どこまでいくんすか、小林さん。笑

着物のみらいも自分でつくる

けんご:紆余曲折ありながらここまできたと思いますが、辞めようと思ったことはなかったのですか?

小林:何回もあったし、遊漁船やっていた友達の話を聞いた時は、本気で辞めることを考えたときもあったよ。でもどこかで「このまま辞めるのは嫌や」という思いが常にあって。業界の全体像を把握して自分の理想とする売り方ができないならやめるけど、できつつあったから踏みとどまった。

けんご:なにか見当だったり、思うことがあったのですか?

小林:やはり情報発信をはじめてお客さんの前に出た時、僕の技術が世の中的にいるかいらないかをハッキリしたかった。ぼかしの技術、こだわった染料をつかったこの技術や表現が世の中的に受け入れられなかったらやめる、その答えを50代で答え出したかったんだ。売れてない芸人がいつまでも漫才してんなよ、という状況と同じで自分の実力を確かめたかった。

けんご:かっこいいなー。(僕も一生かけてそんな作り手になりたい。)

小林:仕事は好きだし、工房に行きたくないと思ったことは一度もないかな。出張行くのは嫌だと思うけど。東京いくと熱が出る。笑

けんご:僕も東京時代に仕事で通っていた駅にいったら気持ち悪くなります。笑 最後になりますが、着物業界にみらいはあると思いますか?

小林:着物にみらいはー、、やってみないと分からないけど未来をつくろうとしている。東京では着物を着たい人が増えているし、梅田くんのように若い子が着たいという要望もあって、そんな人にとっての着るストーリーも作ろうとしている。そういう企画やイベントを打とうとしている人も周りにいるし、変わろうとしてる。

けんご:(変に理想を語らないところが小林さんらしいな・・・)

小林:今までと同じような売上を重視した販売はよくないし、作った商品に愛情をもって販売していかないと続かない。職人さんは怖いイメージかもしれないが、どうやったらキレイにできるかな?いいものになるかな?と考えながら従順に作ってるからさ。そんな人に悪い人はいないし、中にはぶっきらぼうな人もいるけど、みんな丁寧だし愛があるんだよ。

けんご:そう言われてみれば確かに純粋そうだなぁ

小林:職人の中で企画したり発信できる人はやっぱり少ないけど、情報発信をしながらお客さんの前に出ないといけないんだ。着物のみらいに答えはないからこそ、新しいやり方を通したものが勝つと思う。だから、着物業界に未来はあるか?と聞かれたら、それを作ろうとしているって事になるかな。

けんご:なんだか着物業界がオモロくなっていきそうだなーっ。今日はありがとうございました!!

編集後期

「おー、今日はよろしく。」
初めて工房を訪れた時、近所のおっちゃんのように出迎えてくれた小林さん。事前にみていた動画や記事からイメージする職人としての「小林知久佐さん」とはまた別の顔をしていました。それでも話を聞き出すと「こんなこと言ったら怒られるけどさ」「こんな話しても面白くねぇか」と、包み隠さずなんでも話をしてくれた小林さんの魅力にハマっていく感覚。この人むっちゃオモロイな。。終始そんな思いを抱きながら話を伺っていました。

インタビューをした時は、僕自身も身の振り方を考えていた時期だったので、上記のような話がズバズバと心に刺さっていきました。モノづくりに対する想い、職人としてのスタンス、含蓄のある言葉。自分のやろうとしていることが世の中で必要とされているのか、当たり前だけど自分の「好き」と社会とが上手く交わるのかを考え続けることって難しいし、抜けがちな視点だと思う。自分の好きを楽しみ続けたからこそ、染職人としての小林さんもいれば、動画編集をする小林さんもいる。職人としてのこだわりに留まらない人間としての深みを感じたインタビューでした。僕もかっこいい大人になろーっと。

工房情報

〒629-3101 京都府京丹後市網野町網野2718−3

小林染工房   代表 小林知久佐

お問い合わせ時間 9:00 〜 12:00 13:00 〜 17:00

TEL・FAX 0772-72-4975

■Instagram
https://www.instagram.com/kobayashi_somekoubou/

■小林染工房公式チャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCR_AWnzkFQKWTNL8W6N7q3Q

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