“丹後ちりめんを日常使いに” やさしい、を織りなす「たてつなぎ」
2022.1.27
川口優子
これは、「丹後の織物の未来」をテーマに、たんぽけメンバーが「知りたい!興味がある!」と感じたことを独自に取材し執筆する、シリーズ記事です。
こんにちは、川口です。丹後地域の伝統産業である「丹後ちりめん」。着物を着る機会も減っていて、産業でありながら、織物という文化に触れる機会が少ないなと感じていました。
でも最近、「丹後ちりめんのポーチがあるみたい」「好きな絵柄がプリントできるらしいよ」そんな情報を耳にしました。Webサイトを検索してみると、何ともかわいい商品がずらり!「すてきだな~」と思っていたら、ある日、丹後人のバイブルである「ヒラヤミルク」柄のポーチがSNSのタイムラインに。これはぜひお話を伺ってみたい!と、制作されている「たてつなぎ」さんを訪ねてみました。
目次
偶然の出会いから始まった「たてつなぎ」
たてつなぎは、丹後ちりめん織元・臼井織物(与謝野町)の臼井勇人さん、織物・印刷業を行う大善(京丹後市)の田中栄輝さん、婚礼衣裳メーカー二条丸八(木津川市)にてデザイン・企画開発を担当している森山怜子さんの3人で活動されています。今回は、臼井織物さんにおじゃまして、臼井さんと田中さんからお話を伺いました。
お話を伺った部屋には、たてつなぎのサービスである「丹後ちりめん お化粧ポーチ」「丹後ちりめん ふらっとポーチ」「丹後ちりめん テキスタイルパネル」がズラリ。これらは、オリジナルの図案で制作できる、オーダーメイド商品です。
織元 × 印刷 × デザイン の出会い
2019年のちょうど同じ時期に、家業を継ぐため丹後に帰ってきたという臼井さんと田中さん。3人の出会いを伺いました。
臼井:2人とは、2020年、京都府織物・機械金属振興センターの研修会で、「ギフト商品をつくろう」という企画があり、その参加者同士で知り合いました。最初は田中さんと2人で、コロナ禍ということもあり、何か始めようと話していました。でも、商品つくるには、デザインがいるねという話になって。
田中:デザインする人を見つけなきゃいけないと行き詰まったときに、同じ研修に参加していた森山さんができるということで、声をかけさせてもらいました。年齢も同じくらいで気も合って、すんなりOKをもらいました。
臼井:3人で何か始めようとなって、企画を考え始めたのが、2020年の5月くらいでした。たてつなぎのロゴマークやコンセプトも、森山さんが考えてくれましたね。
織元の臼井さん、印刷業の田中さん、デザイナーの森山さん。それぞれ異なる分野で活躍されている者同士の巡り合わせは、「偶然の出会い」だったようです。
これは、たてつなぎのロゴマーク。「織物の基本となる三原組織をモチーフとして組み合わせることで、それぞれの形で織物産地にたずさわる三人を表現しています。左上の丸は「自分たち以外のもの」を表しており、周囲を巻き込み、ともにかたちづくるという意味が込められています」
迷走だらけの立ち上げ期
臼井:最初は何をつくろうか、かなり迷走していました笑。
田中:最初はベビーギフトをつくろうと考えていました。おくるみだったり授乳クッションだったり、僕たちがちょうど子育て世代ということもあり、分かるかなということで。それを、ポリエステルやレーヨンのちりめんでつくろうと思っていました。同時に、Webサイト制作にも力を入れていて、地域のお出かけ場所を掲載しようと、商品開発そっちのけで公園の撮影に行ってました笑。
臼井:ただ商品を載せるだけのサイトにはしたくなかったので、何がこの地域にないかというと、子育てをしやすい場所なのに情報が口コミしかないというのがあって、そういうのをまとめたサイトをつくろうという思いがありました。
田中:自分の子どもを連れて公園に撮影に行って。今のサイトに、だいたいの公園は掲載しています。
臼井:サイトに載せる情報も、迷走していましたね笑。
オーダーメイドギフトがやりたい
ピンチからのスピード転換
臼井:去年(2021年)の3月に京都ギフトショーがあり、そこに出展することが決まっていました。おくるみと授乳クッションを持って行こうと思っていたのですが、試作ができあがってきて、一回洗ってみたんですね。そしたら、ダメになってしまって。うちで織った綿のちりめんと、ポリエステルとレーヨンのちりめんの合わせだったんですが、綿が縮んでしまって。それが、(イベントの)一週間前のことでした。
焦りましたね。でも、その頃から3人の中で「オーダーメイドギフトがやりたいね」という話があって、ちょうどその試作品もつくり始めていたので、急遽それを持っていったら、めちゃめちゃ反響がありました。100円ショップで買ってきたコルクボードを加工して枠にして、プリントした丹後ちりめんを貼ってテキスタイルパネルにしたものだったのですが。
田中:歴史ある丹後ちりめんの生地を使ってオーダーメイドができる、というのが珍しかったんだと思います。
臼井:一応、おくるみと授乳クッションも展示したのですが、そちらの反響はまったくなかったです笑
たまたまできた特殊な技術
テキスタイルパネルを触らせていただくと、ハリがあり、丹後ちりめんの質感とは少し違うように感じます。何より、プリントの発色のよさが際立っています。
臼井:一般的な丹後ちりめんは、もっと柔らかくて滑らかなんですけど、ポーチやパネルにするには強度が必要なので、固く仕上げています。ポリエステル100%です。
田中:染めはインクジェットでやっているんですけど、地球にやさしいインクジェットなんです。通常は、染めた後に(生地に)入りきらなかった染料を落とす「洗い」の作業があって、その時に水を汚染させちゃうんですけど、うちの場合、少し特殊な染め方をしていて、染料が(生地に)入りきるので、洗いの作業をしなくていいんです。
臼井:でもこれ、本当にたまたまできた技術なんです笑。
田中:コロナ禍の中、時間だけはあって、いろいろな試験をしていたんですよ。(ちりめんを)染めて、そして染めて、みたいな。
臼井:それをずっとやっていたら、ある時、自分たちの中で革新的な技術ができたんです。でもなんでこのような染め方ができたのか、よく分かってないんです笑。専門家の人に(どうしてこうなるかを)聞いても、誰も分からないって笑。
田中:帰ってきて1年くらいで、固定観念がない中いろいろやったのがよかったのかもしれないですね笑。このプリントは、堅牢度(色落ちのしにくさ)もかなり基準値より高いですし、日光に当てても日焼けしにくいということで、長く使っていただけます。濡れても問題ないです。
プリントは、幅は100センチまで対応可能とのこと。大きなサイズの商品もつくってみたいですね。
全工程オール丹後での制作を実現
知人を通して広がる地元のつながり
偶然生まれた技術で、発色のよいプリントを小ロットで実現させたたてつなぎ。商品化するにあたり、加工も地元の方を探されたそうです。
田中:パネルの木枠は、KUKU(福田工務店/京丹後市)さんにやってもらっています。試作品のパネルを持って行って、サイズに合わせてつくってもらいました。
臼井:ポーチの縫製をしてくれる方を探すのが大変でした。オーダーメイドなので、1つずつつくるという形になるのですが、企業だとサンプル縫製的な感じですごい値段を取られるので、縫製を1個から受けてくれる人を探すというのが大変でした。で、ゆるりらさん(京丹後市内(主に網野町)で、子育てに関するイベント・悩み相談やお話会を行われているグループ)に紹介してもらいました。
田中:縫える方って、探せばいらっしゃるんですけど。
臼井:でも、商品として出せる腕を持っていて、小ロットで受けてくれるという人は結構貴重で。
田中:(今縫製をしてくださっている方は)偶然の出会いも多いですね。
臼井:結果として全工程丹後でできるようになって、それが一番よかったです。
臼井織物さんで生地を織り、生地の仕上げを丹後織物工業組合の加工場で行い、大善さんで染め、福田工務店さんまたは地元の方で加工をする。この丹後のつながりが、オーダーメイドを実現させているのです。
かわいくて、ポップで、地元の人に愛されるものを
日常使いできる丹後ちりめんを
臼井:丹後ちりめんを使った商品で、一般の丹後の人が買えるものって、ふくさとか風呂敷とかがまぐちポーチとか、和柄って感じのものしかなくて、地元の人はあんまり欲しいと思わないんじゃないかと感じていました。それに、2人とも丹後に帰ってきて織物業に入って、織物の盛んな地域なのに、あんまり地元の人から親近感がわかれていないような、ちょっと距離も感じていました。
田中:丹後にいても、丹後ちりめんを触ったことがない人ってかなり多いと思っています。
臼井:だからぼくらは、丹後地域の人に使ってもらえるものをつくろうという思いでやっています。今までの高級だったり和だったりというイメージのものではなく、身近なお子さんの絵とかを、かわいくポップに商品にすることで、親しみやすく、地元の人に愛されるものをつくろうと。
田中:(商品の注文は)LINEでやりとりするんですけど、商品を送ったあとにお客さんが「むちゃくちゃ嬉しいです」とか感想を送ってくれるんですけど、それがとても嬉しいです。
臼井:今、8割くらいは丹後の方から注文をいただいています。最近徐々に他の地域からの注文が増えてきたんですけど、割と口コミが多いですね。
田中:リピートも結構ありますしね。
臼井:親しみを持ってもらうため、子どもの絵を扱った商品は今後ずっとやっていきたいので、それをどう知ってもらうか、ということが課題ですね。
地元企業とのコラボポーチを販売
丹後の人気商品「ヒラヤミルク」とのコラボポーチ
私がたてつなぎの商品を知るきっかけにもなった、ヒラヤミルクとのコラボ商品である「丹後ちりめん ヒラヤミルクポーチ」。ヒラヤミルクとは、丹後で生まれ育った人なら全員知っているといっても過言ではない、地元民から愛されている平林乳業(京丹後市)さんの大人気牛乳で、私は毎日学校給食で飲んでいました。
臼井:商品としてどんなポーチがあったらいいかっていうのを2人で話していたんですが煮詰まってしまい、育休中の森山さんに電話で相談したら、「ヒラヤミルクさんのポーチが欲しい」という一言があって。それでヒラヤミルクさんにお願いに行きました。
田中:ヒラヤミルクさんも、お客さんからグッズをつくってほしいという声があったみたいで。でも、どうつくっていいか分からないしっていう状況で、どっちもがいいタイミングだったと思います。
田中:でも、商品を限定販売で出す前日は、ドキドキして眠れませんでした笑。こけたらこの先どうしようと思って笑。でも、(販売が始まると)午前中でほとんど売れましたね。
臼井:少し間をおいて再販しようと思っていたんですけど、ヒラヤミルクさんの方へ結構問い合わせがいっちゃって迷惑がかかったので、急遽やりました笑。再販の時は、丹後の人がすごい買ってくれたのでよかったです。1回目(限定販売)の時は、少なかったんですよ。
田中:最初は、丹後以外の方が多かったんです。関東とか、東京とか。
臼井:ヨーグルトマニアみたいな方もいらっしゃいました笑。商品を知らなくても、ロゴがかわいいので、買ってくれたのかもしれません。
田中:再販の時は、北海道からも注文がありましたね。
臼井:京丹後市のふるさと納税の方からも問い合わせをいただいて。(Webサイトに)掲載してもらっています。
いろいろなつながりを広げていきたい
今後の展望について伺いました。
地元企業等とのコラボの輪を広げたい
臼井:ヒラヤミルクさんを見て、(コラボを)やってみたいという問い合わせがありました。地元に愛されているブランドとのコラボはやっていきたいですね。
田中:例えば、酒造さんともやってみたいです。木下酒造(京丹後市)さんの風呂敷をつくらせてもらったこともあって。酒瓶を包むこともあり、柔らかいちりめんを使って制作しました。
臼井:もっと子どもたちに使ってもらえる商品もつくっていきたいです。例えば、ポーチの両側に金具をつけて、子どもが使えるショルダーバッグみたいにするとか。学校で使ってもらえるものをつくるとか。京丹後市や与謝野町など、地元の方とやっていきたいです。
田中:子どもの絵のオーダーメイドをきっかけに、そういう話が広がればいいなと思っています。
BtoBに向けたサービスも考えていきたい
臼井:企業さんから「(図案をプリントした状態の)生地で欲しい」という問い合わせもあって。生地を使って何か商品をつくられるんでしょうけど。そういうのも広めていきたいと思っています。
田中:基本的に、金と銀と蛍光色以外だったらプリント可能です。
臼井:生地の種類も、シボ感がちょっと違うのをつくることもできます。まだPRしきれていないというところがあって、もっと知ってもらえたら、いろいろなことが動き出せそうな気がします。ただ、企業系の仕事を受けたり既製品を受けたりしていくとなると規模感が変わってくるので、そこはこれから考えていきたいですね。
やさしさをつなぐ、地域をつなぐ、伝統をつなぐ。
丹後ちりめんにもっと親しみを感じてもらいたい
臼井:丹後に帰って来てみると、年を重ねたからか、いいところだなと感じています。今は織物業として、丹後の人に丹後の生地を使ってもらいたい、という思いでやっています。丹後ちりめんとか丹後織物って、ちょっと敷居が高いイメージをもっている方もいらっしゃると思いますが、全然そんなことなくて。たてつなぎを通して、丹後の織物にもっと親しみを感じてもらえたら嬉しいなと思っています。
田中:今はタイミングがすごく良くて、若い人たちや同級生で「やろう」としている人たちが周りにいっぱいいて、負けられないなという気持ちで、本当に楽しくやっています。あと、インクジェットは丹後でうちだけなので、しっかりその強みをいかしていきたいなと思っています。
企業同士の垣根を越えたつながりが、丹後ちりめん産業の盛り上がりに。
取材を通して感じたのは、お二人とも、楽しみながら仕事をされているということです。若者同士が企業の垣根を越え、職種を問わずつながり、協力して新しい事業を生み出す。丹後の企業や個人が横のつながりをもって活躍していくことが、織物業の、ひいては丹後地域の発展につながっていくんだと感じました。
織物のまちであるのに、それに触れる機会が少ない昨今。「丹後ちりめんをもっと親しみやすい存在に」というたてつなぎの思いと、ポーチやパネルという、私たちのライフスタイルに取り入れやすいアイテムはぴったりだと思います。
「丹後ちりめんを通して発展していく丹後の未来」というのもきっとあるだろうなと感じます。いろんな知恵が集まれば、おもしろいことはまだまだ生まれそうな気がします。
たてつなぎ
住所:〒629-2501 京都府京丹後市大宮町口大野48番地
営業時間:9:00~17:00(月〜金)
URL:https://tatetsunagi.com/
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https://tatetsunagi.com/gifts/