【対談】シーズファーム 鶴龍郎 × KUSKA 楠泰彦「サーフィンをとおした丹後地域の魅力」

2024.3.25
川口優子
“海の京都”と呼ばれる丹後地域。風光明媚なこの場所で「サーフィンを核としたイベントを開催したい」と話すのは、10年前に京丹後に移住し、農業の傍らサーフィンを楽しんでいる鶴 龍郎(シーズファーム株式会社)さん。イベント開催に向け、取り組みを進められています。今回、30歳でUターンされ、同じく趣味でサーフィンを楽しまれている与謝野町出身の楠 泰彦(クスカ株式会社)さんとの対談を実施。楠さんの知見からイベント開催に向けたアドバイスをいただくとともに、サーフィンをとおした丹後地域の魅力を伺いました。

サーフィンを核としたイベントを開催したい
――まずは、鶴さんのチャレンジについて伺いたいと思います。企画しているイベントについて教えていただけますか?
鶴 2024年の9月、浜詰夕日ヶ浦海水浴場(京丹後市網野町)のビーチで、サーフィンを核としたイベントを開催したいと考えています。いきなりサーフィン体験というのはハードルが高いので、音楽ブースをメインとした、集まりやすい場を作りたいと思っています。まずは音楽を目的に来てもらって、その中で、サーフィンやサップを体験してもらう。サーフショップの方にアパレルも出してもらう予定です。何より、シンプルに、海辺でゆっくり過ごす時間を楽しんでもらいたいというか、生活の一部に海があるっていう状況を味わってほしいと思っています。夕日を見ながら音楽を聞くだけでも、すごく気持ちがいいと思うんですよ。
楠 いいですね。“サーフカルチャー”というか、サーフィンを通じて丹後の海や文化、自然に触れてもらったり、地元の方に新しい発見をしてもらったり。
鶴 イベントが、“サーフカルチャー”や“サーフコミュニティ”に触れるきっかけになればと思います。サーフィンは、一人で黙々とやり続けるにはあまりにも難しいスポーツだと思うので、コミュニティに所属するということが、他のスポーツより圧倒的に重要です。人とつながることで、サーフィンってチャレンジしやすくなるんですよ。
――そもそも鶴さんは、なぜこのイベントを企画されたのですか?
鶴 浜詰でビーチハウスをされている方がおられるんですが、移住者をはじめだんだんそこに若者が集まるようになってきて、サーフィンを中心としたコミュニティができてきています。移住してきたサーファーの人がうちの農場にバイトに来たり、仕事の面でつながったりと、協力関係もできてきました。今、その輪が広がっている中で、これをもっとどんどん大きくしていきたいという気持ちがあります。そのきっかけとして、イベントをしてはと思いました。
楠 素晴らしいですね。今サーフィンで移住されている方は結構多いんですか?
鶴 僕のまわりで6人くらいですね。改めて、サーフィンの持つ求心力、人を惹きつける力ってすごいなって感じています。
――イベントは、どんな方に来てほしいですか?
鶴 前提として、地元の方に楽しんでもらいたいです。案外、丹後にいてもサーフィンをしている人って少なくて。この前高校生と話す機会があったんですけど、丹後でサーフィンができるということすら知らない生徒がいて。もったいない、せめて知ってから外に出てほしいと思いました。
楠 なるほど。
鶴 地元の方が地元に残る理由がないと、外からみてもその魅力って伝わりにくいと思うんです。地元の方が地元に魅力を感じていれば、それに感化されて移住してくる人もどんどん増えてくると思います。その一つの手段が、サーフィンなのかなと。
楠 サーフィンってメディアとしての広がりもすごくありますよね。移住者も含め丹後に住んでいる方が魅力的であれば、そこに求心力が生まれて、丹後に来られる方も増えていくと思います。
――楠さんは今までいろいろご経験されていると思いますが、そんな知見から、アドバイスいただけますか?
楠 サーフィンって地元のカルチャーなので、地元の方とのコミュニケーションが大事です。(鶴さんの企画書のサポートメンバーを見て)ちゃんとコミュニティを持ってやっておられるので、そこは問題ないと思います。あとは、コミュニティ以外をどれだけ巻き込めるか、ということでしょうか。いろんな年代の方がいらっしゃいますので、その方たちの理解も必要です。
鶴 そうですよね。僕は農業をしていく中で、いろいろ失敗したり地域の方に迷惑かけたりしてきました(笑)。なので、地域の方への配慮がすごい大事というのは理解しています。人としても大切なことですし。地域の方に応援したいと思ってもらえるようなイベントにしなければと感じています。
――イベントに来てもらうためには、どんなアプローチがあると思いますか?
楠 1回のイベントだけでは、結局“打ち上げ花火”で終わってしまうので、数回は続けていくべきだと思います。“盛り上がりをみせていく”というのが大事で、「こんな楽しいイベントがありました」みたいなのをメディアで取り上げてもらい、それが“波及していく”というのが理想の形ではないかと思います。魅力を発信し続ければ、「今回行ってみようかな」ということにつながりますし、楽しそうにしていたら、みんな寄ってきてくれると思います。

仕事も、サーフィンも
――お二人がサーフィンを始められたきっかけは何ですか?
鶴 丹後に来てからです。4、5年前、SNSで友達が、仕事行く前に海に入ったり、雪が降ってるのに海入ったりしているのを見て、そこまでするってどんだけおもろいねんと思って。そんだけおもしろいんだったら、せっかく海の近くに住んでいるし、一回してみなあかんと思って始めました。始めたら、案の定どハマりして。
楠 僕は30歳手前まで東京の建設会社で働いていたんですけど、18歳の頃に湘南で初めてサーフィンをして、そっからハマって、ほぼサーフィンと建設業の二刀流みたいな感じでやっていました。東京をベースに、湘南や千葉、北は宮城や福島、南は宮崎、海外にも行って、本当にサーフィン三昧の生活をしていました。そんな時、たまたま丹後でもサーフィンができることを知って、帰省がてらすぐ海に行きました。そしたら、11月くらいでちょうど波も良くって。そのまま「サーフィンしながら何かできないかな」という気持ちで実家に帰ったら、家業(ちりめん製造販売業)がほぼ廃業寸前ということを知って、「サーフィンをしながら家業を継ぐっていうのもありなのかな」と感じて。会社を辞めて帰って来ました。今はサーフィンを、仕事とのバランスを取りながらライフスタイルとして楽しんでいます。
鶴 僕の会社でも、仕事の進捗を見ながら、みんなで入るときは朝から入ったり、仕事を早めに切り上げて入ったりしていますね。
楠 僕は事業を、「丹後のサーファーがやっている織物ブランド」みたいな感じでブランディングしています。サーフィンをやりながら地場産業を盛り上げていく、ということをミッションにやってるところです。
――なるほど。ちなみに、それだけサーフィンにハマってしまう理由って何ですか?
鶴 シンプルに、ドーパミンが出るからだと思います(笑)。僕はまだまだ上手くないので、サイズのある波に乗れただけでも、すごいスピードで見える波の斜面、その景色に興奮してしまうんですよ。
楠 “動いてるものに、自分が乗りながら動いている”っていうシチュエーションって、実は生活の中にないんですよね。そういう得たことのないシチュエーションと興奮状態になるっていうのが、ハマってしまう理由だと思います。刺激を得たいがために海に行く、みたいなところまであります。
鶴 わくわくする瞬間って、新しいものに触れた時に感じると思います。サーフィンって毎回シチュエーションが変わるので、毎回わくわくできるんです。
楠 いきなり波に乗れるわけじゃないので、最初のうちは「またチャレンジしよう」みたいなところもあるんですけど、そこで乗れたらすごく刺激があって、「これはやめられない」みたいな感じでハマっていく。そして「真冬でも入ってしまう」みたいな。
鶴 最初の頃なんか、4時間入って1本も波に乗れないっていう状況だったんですけど、1本乗れたら、この4時間の苦しみが全部チャラになるんですね。そうなるくらい、その1本が気持ちいいんですよ。

――ちなみに、鶴さんが移住先に丹後を選ばれた理由ってなんだったんですか?
鶴 最初は観光農園がしたいと思っていろいろな場所を探していたんですけど、丹後の海を見て、景色の良さだけでもうここにしようって決めました。
――それまで丹後に来られたことはなかったんですか?
鶴 移住してから知ったんですけど、子どもの頃、夕日ヶ浦に海水浴に来てたんですよ。記憶が蘇ってきて、あの海はここだったんだって。今ではもう、サーフィンできるし飯もうまいし。これがあったら、人間大体満足できるんです(笑)。
――楠さんが感じる丹後の魅力って何ですか?
楠 僕はここで生まれたっていうのが大前提にあるので、そこがインセンティブとしては大きいんですけど、やっぱり丹後で出合ったサーフコミュニティというのが魅力になっていますよね。あとは、伝統産業があってそこに従事している人がいて、オリジナリティを持っている方々が多いので、それも魅力です。

サーフィンが丹後を知るきっかけになれば
――例えば、「サーフィンで地域活性化」ということは可能だと思いますか?
鶴 サーフィンは地域活性化の直接の要素にはならないと思っています。あくまで補助的な役割でしかなくて、どこまでいってもまずは仕事できっちり収入を得られることが重要じゃないかなと思います。サーフィンという趣味も持てて、ライフスタイルとして丹後が魅力的な場所になるためには、「田舎でも稼げる」という形を作り出していく必要があります。
楠 おっしゃるとおりで、サーフィンをするだけなら丹後以外に魅力的な地域はたくさんあります。サーフィンという趣味を持ちながら、鶴さんのように農業をされているとか、われわれみたいに織物をしているとか、そんな掛け算的なところに、丹後でサーフィンをする価値があるんだと思います。
――楠さんはWebメディア『THE TANGO』を運営されていますよね。サイトのトップ画面にもサーフィンの動画が出てきますね
楠 僕は「発信すること」が重要だと思っています。京都でサーフィンができるということ自体、まだあまり知られていません。まずはサーフィンができる場所であるということを知ってもらい、そのことにより“丹後地域にはこんないいものがあるんだ”という魅力に気付いてもらえたらと思います。あとは、地元の魅力的な人や織物にフォーカスを当てたコンテンツを作るなど、インナーブランディングの狙いもあります。
鶴 それは地域のコミュニティづくりにもつながりますよね。農業でも、今はまだ各々が独立して事業をやっているんですけど、これをどんどん横のつながりにして、いろんな人と協力関係を持ってビジネスをやっていくという取り組みが大事になってくると思います。

――今の若者に向けてメッセージがいただきたいです
楠 僕たちは今、ものすごい情報量の中から良い悪いを精査しながら生きています。本質を見抜く力が重要で、丹後ってより自然に近いというか、本質に近いところがすごくいっぱいあると思うので、そのへんをしっかり学び感じ取って、魅力ある地域として、丹後ひいては日本全体を盛り上げていってもらいたいです。魅力があれば、いろんな方に来ていただけます。
――夢に向かってチャンレンジしている方へ、アドバイスをするならば
楠 「やりたいことに覚悟を決める」「迷わずいく」ということでしょうか。そこさえ振り切れば、自分の思いに近しいものになっていくと思います。やりたいこと、楽しいことをやるっていうことが重要で、それが仕事になり、コミュニティにつながっていくんだと思います。
――最後に。今日の感想をお聞かせください
鶴 僕はもうシンプルに、楠さんがかっこ良すぎて(笑)。やりたいことをかっこよくされているので、僕もこれから取り組んでいくチャレンジの中で、個人的にいろいろ相談させていただけたらありがたいなって思います。
楠 鶴さんは、ものすごく考えられている方だなと感じました。ぜひ、10回続くイベントにしていってほしいです。
――今日はありがとうございました
初対面のお二人ですが、サーフィンという共通言語で語る「事業」そして「丹後」への思いは、同じ方向に向かって進んでいる気がしました。鶴さんが実現したいイベント、そしてそのチャレンジを応援してくれるコミュニティ。この対談が、新たなつながりとして広がっていけばいいなと思います。(川口)
Profile
鶴 龍郎(つる・たつろう)
1991年生まれ。大阪府出身。23歳で京丹後市に移住。農業を生業とするシーズファーム株式会社を設立し、久美浜町を拠点に活動中。農業者と他業者との連携による課題解決を目指し、機会の創出に取り組んでいる。
▼シーズファーム株式会社 Instagram
https://www.instagram.com/seasfarm.inc
Profile
楠 泰彦(くすのき・やすひこ)
1976年生まれ。京都府与謝野町出身。クスカ株式会社代表取締役。30歳でUターンし家業を継ぎ、2010年、自社ブランドKUSKAを立ち上げる。伝統工芸をモダナイズさせるという理念の元、2022年に「kuska fabric」にリブランディング。ネクタイ・ストールを中心としたコレクションを展開している。Webメディア『THE TANGO(ザ・タンゴ)』を運営。
▼kuska fabric
https://kuska.jp
▼THE TANGO | 海の見える京都
https://thetango.kyoto
本記事は、丹後地域でチャレンジしたい若者の後押しを目的に、丹後広域振興局の若手職員が企画したものです。