丹後とカンボジアがコラボレーション ~子どもの未来を紡ぐ糸~

2022.3.21

ハラコー

これは、「丹後の織物の未来」をテーマに、たんぽけメンバーが「知りたい!興味がある!」と感じたことを独自に取材し執筆する、シリーズ記事です。

「丹後の織物の未来」と聞くと、言葉通り「丹後で何か織物に関する活動をすること」を想起してしまうが、
今回は「丹後の織物が世界のどこかで未来につながるような可能性を創っている」という取り組みについて紹介したい。

カンボジアとのコラボレーション

実は2年前の2020年から丹後の織物はカンボジアのとのコラボレーションを進めている。

丹後は日本でも有数の絹織物の生産地であり、使用されている絹糸は最高級の素材といって過言ではない。
ただし、生地を織った後には必ず残糸(ざんし)と呼ばれる糸が発生し、それらの多くは利用されることなく廃棄されてしまっている。

織物の過程で発生する残糸

せっかく最高級の素材があるなら、余剰の残糸を活用して世の中に役立たせることはできないのか。
そんな考えからカンボジアとのコラボレーションは始まった。

カンボジアで活動する日本のNPO法人

皆さんはカンボジアという国名を聞いて、どういうイメージを持つだろうか。

発展途上国。
内戦の歴史を持つ国。
地雷が残されれている国。
アンコールワットがある東南アジアの国。

なんとなく、そんなキーワードがあがるのではないだろうか。
そして、そのイメージ通り日本と比較すると裕福とはいえない地域が多く残っており、農村地域では貧困問題や子どもの教育環境不足の課題を抱えている。

雨漏りする校舎で傘をさして勉強する子ども達

そんなカンボジアで2006年から活動している『NPO法人サンタピアップ』という団体がある。
この団体は、現地の子ども達の就学支援を目的に、子ども達やお母さん達にアクセサリの作り方を指導し、そのアクセサリを買い取ることで、子ども達が自分の力で学び続けることを支援している。(その他、学校への飲料水の提供など学習環境の支援なども行っている)

このNPO法人サンタピアップに丹後の絹糸を提供する形で丹後とカンボジアのコラボレーションが動きだした。

株式会社 二条丸八さんのご協力

カンボジアに絹糸を提供していただいているのは、京丹後市大宮町に研究所を構える『株式会社 二条丸八』さんだ。
絹織物でとても美しい婚礼衣装を制作されている。

二条丸八HP:http://nijo.co.jp/

所長の坪倉さんは「遠い昔、テレビで観たカンボジアという国が記憶に残っている。”何かできないのか”という想いがあり、当時の記憶がずっと残っていた。」と語る。

婚礼衣装業界はコロナ禍で苦境にあるそうだが、二条丸八は残糸や残布をすべて無償でカンボジアに提供してくれている。
このコラボレーションはそのご厚意があってこそ成立している。
どんなに経済やテクノロジーに重きが置かれるようになっても、新しい試みを支えているのは『人間のこころ』だということだろう。

制作されたアクセサリーたち

日本・カンボジアともに心ある人たちの想いがあふれるコラボレーションによって創られるアクセサリー。
いったいどんなカタチになっているのだろう・・?

読者諸賢も気になっているかと思うが、そろそろその制作物を紹介したい。

シルクミサンガ

これは、全てカンボジアの子ども達が細い絹糸を1つ1つ編んで作ったミサンガ。

もともと婚礼衣装に使われる絹糸なので、華やかな色あいのアクセサリーになっている。
光にあたるとシルクの光沢が表れるミサンガは、一般的なミサンガや金属のブレスレットとはちがった趣が感じられる。

シルクイヤリング・ピアス

こちらも婚礼衣装で使われる絹糸ならではの鮮やかな耳飾りになっている。

和柄ならではの錦の趣も放ちつつもアジアン雑貨的なテイストも感じられる、ステキなタッセル型イヤリング(&ピアス)となっている。

シルクチャーム

こちらは鞄のワンポイントアクセサリーにしてもよいし、キーホルダーのような使い方をしてもよいだろう。

これらすべてのアクセサリーをカンボジアの子どもとお母さん達が全て手作りしていると考えると、さらに味わい深い。機械で製作された規格品が町にあふれる中、これらのアクセサリーからは人情味と暖かさが感じられる。

アクセサリーに込められた想い『Sanyea(ソニア)』

ここまで紹介した、丹後とカンボジアとのコラボレーションによって生まれたアクセサリーには『Sanyea』という名前が付けられている。(ソニアと読む)

Sanyeaとはクメール語で『約束』という意味になっている。
いったい、誰と何を約束しているのだろう?

この『Sanyea』=『約束』に込められているのは

“生まれた国や地域に関わらず、誰もが夢を叶える機会を得られる世の中であること” を子ども達に約束したい

ということだそうだ。

本当にそんな世界が実現できるのかと思う人もいるかもしれない。

しかし、NPO法人サンタピアップが支援してきた子どもの中には、小学生の頃からアクセサリー作りを継続して自分の力で中学・高校に進学し、今は首都プノンペンの大学に特待生として進学し米国留学を叶えた子もいる。
(その子の家庭には電気・ガスが通っておらず、元々は小学校卒業と共に働く可能性が高かったそうだ)

先に紹介したアクセサリーの中にミサンガがあった。

ミサンガというのは、(切れると)身に付けた人の願いを叶えると言われている。
しかし、このSanyeaのミサンガは、作り手の子ども達の願いも叶えることにも繋がるというわけだ。

こんな素晴らしいアクセサリーがあるだろうか。

丹後の高校生とのコラボレーション

さらに、この取り組みに共感してくれた丹後在住の高校生が、これらのアクセサリー販売に協力してくれている。

TanTanPocketの過去記事にも紹介させてもらった、廃校を活用した『Rainbow School』というイベントでは、宮津高校に通う2年生の学生がアクセサリー販売を行ってくれた。

本イベント終了後も、丹後の高校生とカンボジアの学生がオンラインで交流するイベントなども行われており、日本とカンボジアの学生達の国際交流も進んでいる。
(それらのイベントは京丹後市未来チャレンジ交流センター roots が支援してくれている)

画像はInstagram投稿より

アクセサリーは京丹後市のふるさと納税返礼品に

さらに素晴らしいのは、これらのタンゴジアの絹糸を使ったカンボジアで作られたアクセサリーが京丹後市のふるさと納税の返礼品にも登録されていることだ。

ふるさとチョイス https://is.gd/CKfADo
楽天ふるさと納税 https://is.gd/8HZdEx
ふるぽ https://is.gd/zZSpXT
京丹後市ふるさと納税特設サイト https://is.gd/CVS3CS

このアクセサリーがふるさと納税を通じて多くの人に届けられれば

①カンボジアの子ども達の夢を叶える助けになる
②地方創生に貢献することができる
③丹後の絹織物の価値を世界に広げることができる

「子どもの未来を紡ぐ糸」プロジェクトが示すこと

最近、SDGs(Sustainable Development Goals)という言葉を聞く機会が増えたという方もいるかもしれない。
持続可能な世界を実現するために国際連合が掲げた目標のことだが、こういったキーワードを聞いても、多くの人は
「田舎に住んでたら何もできない」
「世界を変えるなんて大それたことはできない」
と思ってしまうのではないだろうか。

しかし、この「子どもの未来を紡ぐ糸」は、田舎の地から遠く離れたカンボジアの子ども達の夢を応援する機会を確かに創っていると言えるだろう。

また、これらの取り組みは元々廃棄されていた絹織物の残糸を使用しており、新たな費用などは発生していない。
ほとんど新たな費用をかけずに、海外と繋がる事ができて子ども達(日本の子どもも海外の子どもも)の未来の可能性を広げようとしているのだ。

本記事を執筆するにあたって「丹後の織物の未来」というテーマは、今後の織物産業にはどんな未来が待ち受けているのかということが期待されるのかもしれないが、このプロジェクトからは「丹後の織物が持つ価値がどんな未来を創ってくのか」という、未来への新たな端緒が感じられる。

終わりに

「丹後の織物の未来」をテーマにした記事執筆の取材をする中で、

「織物の未来は明るくない」
「存続させることすら難しい」

という声を聞く機会がしばしばあった。

しかし、この「子どもの未来を紡ぐ糸」からは、全く違う未来像が感じられた。
それは、旧いものを存続させるという観点だけではなく、新しい未来・新しい世界を創っていくという活き活きとした新鮮なエネルギーだ。

最後に、カンボジアの子ども達が書いた絵を織物(タイル)にしている試みを紹介したい。

株式会社 二条丸八 では、人材育成の一環の中でカンボジアの子ども達が描いた絵をオリジナルデザインの織物(タイル)にするという試みを行っている。

子ども達が描いた絵から感じられるのは純真無垢な『未来への希望』そのものだ。

カンボジアの子ども達の夢や希望が織物という具体的な形になる過程を見て私は確信した。

織物業をはじめとする製造業は「何かをカタチにする仕事」だ。
そして、その”何か”とは作る人間の『心』に他ならない。

このプロジェクトが伝えていることを言語化すると、こんな言葉ではないだろうか。

『どんな状況に置かれても夢を持とう!』
『そして、夢は現実に変えていこう!』

その心を持ち続けることができれば、自ずと私たちの進んでいく未来が見えてくるのではないだろうか。

カンボジアの子ども達は私たちに必要な”何か”を雄弁に語ってくれているのだと思う。

子どもの未来を紡ぐ糸 取り組み紹介動画

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