ファインダー越しに見る「織物の未来」

2022.2.24

Inamoto Shinya

これは、「丹後の織物の未来」をテーマに、たんぽけメンバーが「知りたい!興味がある!」と感じたことを独自に取材し執筆する、シリーズ記事です。

今回のテーマは「丹後の織物の未来」についてだが、そもそも丹後でちりめん産業が発展するキッカケは何だったのか?
丹後織物工業組合さんのサイト『THE SILK』によると、

300年前の江戸時代の享保5年(1720)、絹屋佐平治らが京都西陣より持ち帰った技術をもとに創織した「ちりめん」が、現在の「丹後ちりめん」の始まりで、その後瞬く間に丹後地方全体に広まったとされ、そして峰山藩・宮津藩がちりめん織りを保護助長し、丹後の地場産業として根付くことになったのです。

https://tanko.or.jp/association/tango/

文字にすれば、たった150字ほど。けれど、ここにたくさんの苦悩や挑戦があったことだろう。
今でこそ撮影を仕事にしている筆者も、初めてカメラを手にしたのは2017年、当時の自分にとっては勇気のいる新しい挑戦だった。

最近、織物の作り手が新たなチャレンジとしてカメラを手に奮闘しているという。
彼らはファインダー越しにどんな未来を見ているのか。今回の取材を通して、少し横から彼らの見る未来を覗かせてもらった。

小林染工房 小林知久佐さん

先日【染職人、小林知久佐。モノづくりへの愛情と着物のみらい】の記事に登場した小林さん。

実はもともとカメラが好きで、趣味で写真を撮っていたという。最近では動画にも興味があり、自分の技術を動画で残しておこうと機材を新たに購入して、動画制作をはじめたそう。
編集ソフトも購入したが、使い方がわからずYouTubeを見て勉強。その結果、自分の表現したいものを作ることができるようになった。

制作した動画は自身のYouTubeチャンネルで公開しており「今は学ぶことも発信することもできるYouTubeのようなサービスが無料で使える、とても良い時代だ」と感じている。

現在公開している動画は27本。(※2022年2月24日現在)
フタを開けてみると、同業者をはじめ、学生などさまざまな方から反響があった。YouTubeで若い世代とコラボしてみたり、新しい世界も広がった。

SNSなども含め、作り手が情報発信することにとても可能性を感じている小林さん。
「何より撮影や編集をしている時間がとても楽しい。昔から何かを作ることが好きだったが、動画コンテンツも同じ。もっと作っていきたい」と目を輝かせながら話してくれた。

ものづくり、そして商売にも「愛」が大切。少しでも良いものを、お客さんの喜んでもらえるものを作れるように、日々必死に考えながら取り組んでいる。
作ったものはもちろんだが、そういった裏側のストーリーも伝えていきたい。

着物やちりめんについての未来は、正直どうなるかわからない。
ただ、小林染工房に魅力を感じてくれるお客さんとしっかり繋がり、お互いにハッピーな関係性を構築していきたいと考えている。そういった自分の思い描く理想に限りなく近づいているという感覚があり、引き続き、自らの手で未来をつくっていきたい。

小林さんの手から作りだされるのは、染めものや動画という形ある”もの”だけでなく、「未来」という目に見えない”もの”なのかもしれない。

小林染工房【公式チャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCR_AWnzkFQKWTNL8W6N7q3Q

柴田織物 柴田祐史さん

最近、撮影機材を購入したという柴田さん。
「自分が作る新しい生地の質感や色合いなどを、多くの人へよりリアルに届けたい」という思いからカメラを手にしたそうだ。

大学を卒業後、社会人になって数年経ったある日、父親から「自分の余命は2年、家業を継ぐかどうか決めてくれ」と連絡があった。
少し迷ったが、出世欲が強くないこともあり、会社を辞め、家業を継ぐことを決断。
もともと機械いじりが好きで、機織りも織機の構造を見ながら糸がどう織られていくのかを楽しみながら学んだ。

縦糸と横糸は織っていく中で、それぞれの張力によって仕上がりの質感が変わる。
「なぜこうなるのか」という根本的な理屈に対する知識欲は強く、どんどん新しいチャレンジもしたいと思っている。そのひとつがこちら。

これは現在開発中の生地で、とても繊細かつ透け感のあるもの。
従来の織り方で同じような生地を織ると、よれやすく、生地としての品質に問題があった。これを製糸過程から見直し、ある織り方をすることで品質を保ったまま繊細で透け感を表現できるようになった。

また、いつか構造色の生地を作りたいと考えている。
構造色とは「光の波長あるいはそれ以下の微細構造による、分光に由来する発色現象を指す。特徴として、見る角度に応じて、様々な色彩が見られることが挙げられる」とある。CDの裏面やシャボン玉をイメージするとわかりやすいだろう。

これについても、頭の中ではすでにイメージができており、時間ができたら試作したいと晴れやかな表情で語ってくれた。

何も考えず同じことを続ければ、時代の変化とともに廃れるのは当然。
常にチャレンジし、新しい価値を生み出す。そして、その価値を伝える努力が大切。
自分は織物業界を悲観的に見ておらず、可能性を感じている。長い織物の歴史の中でこれまでにも様々な生地が開発されてきたが、まだまだ新しいものをつくれる。

見る角度によって、未来も色彩を変える。
柴田さんの描く未来は色鮮やかなもので満ちあふれている。

柴田織物
http://www.shibata-orimono.com/

丹後織物工業組合 藤原優也さん

「新しく撮影スタジオができるんだって」

そんな噂を耳にした。
興味を持って調べてみると、丹後織物工業組合の中に商品撮影などに使用するスタジオを作ったのだという。なぜ今、そういう場所を作ったのかが気になり、話をうかがった。

もともと丹後織物工業組合は、丹後の機屋が精練などの加工を共同で行う目的で組織された。そのルーツは明治にまで遡るが、大正、昭和、平成を経て令和の現在、和装生地の需要は確実に減少している。
そんな中、新時代の新たな挑戦として「TANGO OPEN CENTER構想」が持ち上がった。

丹後産地が持つ織り・加工の技術は勿論のこと、丹後の文化、自然、食などの背景を一体的にブランディングすることで、「テキスタイルクリエーション産地」として国内外のデザイナー、クリエイター、アーティスト、バイヤーに興味を持ってもらえる産地になると思っています。織物業のみならず地域全体の活性化を図るためにも、生産、技術・デザイン開発、また販路開拓といった「ものづくり」から、産業観光の推進や観光情報の発信、WEB、SNSによる「情報発信」、そして、消費者への直接販売も行いながら商品開発へフィードバックできる機能を強化して、事業者のBtoBを基本とした新たな収入を創出する必要があると考えています。

https://tanko.or.jp/2020/11/24/7192/

織物だけに固執せず、風土や文化なども含め、国内外に広く発信していこうという試み。
その一環として、以前は京都市内で行っていた「丹後織物求評会」を丹後で開催。
また、「TANGO CREATION PLATFORM(https://tango-creation.jp/)」では、世界で活躍するクリエイターやデザイナーが丹後での暮らしや交流を通じ、新たな可能性を模索する取組も行った。

2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、イベントなど足を運んでもらうことが難しくなってからは、オンラインでの商談会を行ったり、SNSなどを活用した情報発信に注力している。
組合全体でそういった努力をすることはもちろんだが、個々でも新たなことにチャレンジできるようシェアスペース兼撮影スタジオを作った。

ネット環境が整備されているためオンラインでの様々なやりとりや、撮影に必要な機材も借りることが可能なため商品の撮影などにも気軽に行える。
(用途は限定されておらず、一般の方も使用可能。詳しくは、丹後織物工業組合まで)

組合の職員になったことで、普段の買い物でもその服がどんな素材を使っているのかを気にするようになった。
丹後の織物の品質は高く、めちゃくちゃお洒落。この生地でこんなジャケットがあったら良いのに!と妄想することも多い。
良さをしっかり伝えていくことで、自分達のような若い世代でも興味を持つ人はたくさんいるはず。

質の高い織物を作り上げる職人たちと、丹後の織物の品質をその目で見て「この良さを世界に広めないのはもったいない!」とチャレンジを続ける丹後織物工業組合。
「いいもの」を発信することは、織物の未来を変えるだけではない。
丹後の未来に新たな美しい光を差し込ませるものに、きっとなる。

丹後織物工業組合
https://tanko.or.jp/

編集後記

今回の取材で、彼らがファインダー越しに見ている未来を、私も同じファインダーを見ているような感覚で一緒に感じることができた。

様々な分野での技術革新によって、過去に膨大なコストと手間が必要だったことも、低コストで誰もが簡単に実現できるようになっている。
また、世界中の誰とでも簡単につながることのできる今、地球全体を市場にすることも容易になった。

過去のやり方や価値観に囚われることなく、常にチャレンジを続ける姿勢が明るい未来への指針だと思う。何より彼らは新たなチャレンジや、日々の仕事を心から楽しんでいる。
世界は広いが、遠くはない。ファインダーのすぐ先にある、そう感じた。
きっと掴めるのだ、見据えて手を伸ばす勇気さえ持てば。