銀塩プリントで大切な一枚を残す「スピードプリントセンター」
2022.9.12
川口優子
創業45年を迎える、宮津市にある「スピードプリントセンター(谷口写真館)」。お店に入ると、天橋立をはじめとする丹後の風景や子どもの笑顔など、美しい写真が飾られています。たんぽけメンバーの稲本くんが「よく写真の話をしに来ている」ということもあり、私も一度来てみたかったお店。「写真プリントの機械を見てみたい」という好奇心のもと、代表の谷口政彦さんに、お仕事のお話を伺いました。
写真プリントから出張撮影まで
川口:谷口さん、今日はよろしくお願いします。まず、お店のサービスについて教えてください。
谷口:基本的には、写真のプリントをしています。それと、お店で証明写真なんかも撮影できますし、七五三といった記念写真などの出張撮影もやっています。あとは、額など、写真関連商品の販売もしています。
川口:(お客さんが持って来られるデータは)今はみなさんデジタルですよね。
谷口:そうですね。今は、デジカメを使ってらっしゃった方は、みなさんスマートフォンに変わっていますね。
川口:私は最近、写真のプリントは全然していません(苦笑)。
谷口:今はみなさん基本的にあんまりプリントされないので、誰かにあげるという目的がほとんどです。「カメラを持っておらんかった人に、スマートフォンでたまたま撮っていたのであげたい」とか「おじいちゃん、おばあちゃんにあげたい」とか、そういうお客さんが多いです。
川口:この機械でプリントされるんですよね?
谷口:はい。銀塩プリント(銀塩写真)ですね。現像液っていうのが入っていて、用紙がこの機械を通過していってプリントできます。
銀塩プリントとは、ハロゲン化銀という物質を含む薬剤を塗布した写真用紙に、光をあて化学変化させ、反応した部分を現像することで画像があらわれるプリントのこと。インクジェットプリントやレーザープリントといった「印刷」と比べて、耐久性と防水性に優れており、仕上がりも滑らかだそう。
川口:すごく大きな機械ですね。
谷口:昔はもっと大きかったんです。だいぶコンパクトになって。
川口:どれくらいのサイズまでプリントできるんですか?
谷口:A3ノビサイズまでいけます。それ以上の大きさのものは、インクジェットで印刷することが可能です。インクジェットだからすぐ色褪せるというわけではなく、どういう紙に刷るかで違ってくると思います。
写真を撮り始めて気づいた丹後の風景の美しさ
川口:谷口さんはどういう経緯でこのお仕事を始められたんですか?
谷口:ここはもともと、親戚がはじめました。彼は、こういう(プリントの)機械を販売している会社にいて、彼の妹に「こういうお店やれへんか」っていうて。お店はここじゃなく、ちょっと違う所にあって。何年か後に、僕が入ったっていう。
川口:写真に興味があったんですか?
谷口:いやいやいや。その妹である前オーナーが出産するというタイミングで、僕も転職を考えていたので、じゃあどうやろってことで。カメラにフイルムも入れたことがなく、カメラで写真を撮ったこともない、まったく分からない中で始めました(笑)。
川口:されてみてどうでしたか?
谷口:今ほど楽しさはなかったです(笑)。今は自分で写真を撮るから(お客さんの写真を)より良くしてあげようという気持ちがありますけど、昔はそんなんでもなく、ただプリントしていただけなので。
川口:では、谷口さんが写真に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
谷口:仕事を始めて、10年くらいたったときかな(笑)。何も趣味がなかったので、カメラを買いました。とりあえず風景を撮ろうと思ったんやけど、この辺で三脚立てて写真撮るのは恥ずかしかったので(笑)、山や海へ行って。朝日や夕日から始めました。
川口:どうでしたか?
谷口:こんな(素晴らしい)風景が、こんな身近にあって、毎日独り占めで。それをみんな知っとってないわけですよね。もったいないなぁと思いながら。
川口:確かに、丹後はどこも風景がキレイですもんね。
谷口:この時は、朝から晩まで、写真のことしか考えとらんかったなぁ(笑)。朝日を撮り行って、それから仕事して、終わったら夕日を撮りに行って。休みの日も行って。
川口:今まで撮られた中で、特にお気に入りはありますか?
谷口:丹後町の波の写真かな。波が岩に当たって跳ね返ってきた波と、また押し寄せてくる波とがたまたまぶつかることがあって。それがうわっとこう大きくなって、いろんな形になる。それを撮ろうと思ってもなかなか撮れへんのです。
川口:自然の一瞬を切り取る、写真ならではですもんね。
息を止めてシャッターを押したフィルム写真で入賞も
当時谷口さんは、撮影した風景写真を、カメラ雑誌等に応募していたといいます。
谷口:写真を撮っても、今みたいにそれを発信するところがなくて。デジタルではなかったし。
川口:あ、当時はフィルムですか?
谷口:そう、フィルムだから、貴重な1枚なんです。ピントも、息止めて合わせて(笑)。ピントの位置で、写真の仕上がりも全然違うし。今みたいに画面をバーっと大きくしてっていうのもできへんから。
川口:フィルム写真って、どうやってプリントするとか、全然知らないんですよね。
谷口:(フィルム写真を持ってきてくださって)これがフィルムです。撮影して現像に出したら、これが上がってきます。当時は、福知山に現像所がありました。ちょっと見てみてください。
川口:ほーー、思ってたより色がキレイですね! これをプリントするんですか?
谷口:プリントはしないんです。このまま。
川口:このまま?
谷口:そうです。アサヒカメラとか日本カメラという写真雑誌があって、そういうところに応募するんですけど、このフィルムをマウントに入れて応募するんです。
川口:知らなかった!(笑)。フィルムってそうやって応募するんですね!
谷口:いろんな部門があって、フィルムを出すのは「スライドフィルム部門」になります。昔は、こういう(雑誌のような)ところでしか発表ができんかったんです。ファインダーを覗いて、作品に仕上げないといけない。だから、息止めてシャッターを切るんです(笑)。
川口:奥が深い世界ですね〜! フィルムにハマる方の気持ちが分かる気がします。谷口さんにとって、写真の魅力って何ですか?
谷口:やっぱり、「こんな(美しい)もんが撮れるんか」っていうのが一番の魅力かな。キレイなものを見ると、心洗われるし(笑)。
今は主にインスタグラムで発信されている谷口さん。プレイベートで撮影に行く機会は減ったといいますが、発表の場が変わっても、「丹後の美しい景色を見てほしい」という気持ちは今も変わりません。
お客さんの望みを叶えてあげられる写真屋さんに
谷口:最近の撮影は、仕事の出張撮影がほとんどです。幼稚園の行事とか、七五三や結婚式とか、依頼があれば撮りに行きます。最初に出張写真を撮ろうかなと思ったのは、(プリントに持ってこられる)お客さんの写真を見とって、撮ってあげたいなぁと思って。七五三でも何でもそうですけど、誰かがカメラマンになると、家族一緒に撮れへんでしょ。だったら代わりに撮ってあげられる写真屋さんになれたらいいかなぁと。
川口:谷口さんに撮っていただけたら、きっと楽しい写真に仕上がりそうですね。
最近は写真だけでなく、イベント等の動画撮影の依頼もあるそう。店舗の奥には、新しく揃えられた動画撮影用の機材が置かれていました。
川口:今後の展望はありますか?
谷口:展望って難しいよね。コロナになって、お客さんの流れが変わってしまって、どうなるんだろうって。新しいことしていいのか、待っとてもええものか。
川口:確かに、先が見えない時代ですもんね。
谷口:でも、この仕事は楽しいんでね。最近は、「この写真どうにかしてどうにかしてくれへん」って持ってきてもらうのが一番楽しいんやわ。例えば、市の展覧会とかに出す写真を、若い人はレタッチして出せるけど、年配の人はできへんから、そういうのをしてあげて。そうやって、ここのプリントで応募してもらって、賞でもとってもらえたら嬉しいよね。去年も、福知山市と神戸市の展覧会に出された方が賞を取られて。
川口:それはうれしいですね。お客さんの要望を実現できるって、まさに仕事の醍醐味ですね。職人だからこそって感じがします。
谷口:お客さんに喜んでもらって、ありがとうって言ってもらえるのはうれしいですね。写真撮ってあげても何でもですけど、そう言うてもらえるように、頑張っています。喜んでもらえるように。また頼んでもらえるように。
川口:お客さんの望みを叶えてあげたいという点は、普段私がしているデザインの仕事と同じだなぁと感じます。満足して、また次の仕事を依頼してもらう。サービス業の本質は、まさにこれなんだと思います。
谷口さん、今日はありがとうございました。
おわりに
終始、笑顔が絶えない谷口さん。取材中、スマートフォンの写真をプリントしにやって来られたお客さんと楽しそうに会話をされていたのも印象的でした。何でも相談に乗ってくれる、まちの写真屋さん。丹後の美しい風景を愛している谷口さんに、この風景と人々の笑顔を、ずっと残してほしいと思いました。そして改めて、私も部屋に写真を飾ってみたくなりました。
●店舗情報
店舗名:スピードプリントセンター(谷口写真館)
住所:京都府宮津市魚屋994-1
営業時間:9:00〜18:00(日曜定休)
TEL:0772-25-1385